時空の流れが封入されることによる都市風景のダイナミックな表現

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皆さん、こんにちは。タカウエ(@Akira_TAKAUE) です。
前回(第2回)では「コンセプトが魅せる建造物の長時間露光撮影」と題して、都市風景・建築および土木構造写真におけるコンセプチュアルな昼間長時間露光撮影の考え方やその撮影手法の意図、さらには撮影機材についてお話させていただきました。

高層ビルや美しい意匠的デザインに主眼が置かれた建築構造、構造力学や利便性に主眼が置かれた吊橋のような土木構造物、そしてそれらの複合体である壮大な都市風景、これらを被写体として選択した場合、建築や橋梁の設計・建設プロジェクトの業務写真に関する技術的専門分野の観点からは、

  • 「構造物のテクスチャの質感を適切に表現するための効果的な入光」
  • 「周囲の付属物との融合」
  • 「計画者や技術者がある一定のコンセプトに基づいて計画・設計したその構造物のありのままの姿(時にはあるべき姿をパッキングできるための正確な構図」

などが重要になるでしょう。

しかしながら、その構造物(群)の存在や、それらを取り巻く自然条件の刻々とした変化を長時間露光にて撮影することにより「時空の変化」を自由に操り、「時間軸という縦のレイヤーを写真の中に封印」することができれば、一般的な建築・土木構造・都市風景写真をファインアート・フォトグラフィーとして昇華させるための撮影者が意図した様々なコンセプトを付加することができるでしょう。
当然のことながらそのコンセプトは第1回および2回でお話させていただいたように多岐にわたり、撮影者の数×撮影条件の数だけ存在するかもしれません。
そこで今回からは数回に分けまして、建築系ファインアート・フォトグラフィーの観点から、今までお話させていただいた内容を踏まえ、様々なコンセプトのうち明解な表現方法に絞ってお話しさせていただきたいと思います。

時空の流れが封入されることによる都市風景のダイナミックな表現

建築系ファインアート・フォトグラフィーの観点に基づいた昼間長時間露光撮影を行ううえで、最も明解なコンセプトの一つとして、静物と動体の融合から派生する表現でしょう。
ある風の強い日、あなたが旅先での或る街角にて摩天楼に直面しているとき、肌で強い風を感じるとともに、上空をダイナミックに流れる雲と微動だにしない摩天楼のコントラストを目の当たりにすることとなります。
この時、動体を「時間軸という縦のレイヤー」として効果的に写真の中に封印したとき、構図設定以外は誰がとっても同じであろうはずの人工都市風景写真が瞬時にして独自性豊かなものとなるとともに、スタティックな場面がダイナミックな場面へ、いわゆる現地で感じた感覚と時間軸を包含した写真へと変貌を遂げます。

そこで今回は、表題にあるコンセプトである、「時空の流れが封入されることによる都市風景のダイナミックな表現」について先ずは紹介させていただきます。

Makati Prologue, Manila, Philippines

撮影場所・背景

Nikon 1 V1, 1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6 – 31mm(35mm換算), マニュアル露出(F8、18秒), ISO/100, WB/オート, 10段減光(ND1000)

街角(この写真はフィリピンの首都、メトロマニラ中心街マカティ地区)における構造物撮影は、近景、中景、遠景、そしてそれらが複合的に組み合わされることとなりますが、街中に見られる信号機や各種標識も、利用者の視認性に関する検討を十分に行い設置されています。
この写真の間近に見える信号機は近景であり、背景にそびえ立つビル群は中景なので、近景と中景の複合写真といえます。
よって双方を違和感なく写真に収めるためには、広角レンズを使い、ローアングルで撮影することは構図設定において重要な撮影手法といえます。

本来この場所は非常ににぎやかな場所ですが、構図は水平ではなく、上方に向けることにより人気(ひとけ)のない非現実的な街角を表現しています。

本作品での昼間長時間露光のねらい

ご紹介しているコンセプトの文字通り、強い風により勢い良く流れる雲と微動だにしない構造物群からなる動と静のコントラストをダイナミックに表現することを主要な「ねらい」としています。

通常昼間長時間露光を行った際、その露光時間が長いと背景が抽象化され、被写体の存在感を先鋭化させることにつながりますが、今回は雲の動きを表現するためにあえて形を残すとともに、信号灯を一定の色に保つためにシャッター速度は18秒とし、F値一定の下、NDフィルターの減光段数でその露光時間を調整しています。
これによって、中景にそびえ立つ、強い風を受けても微動だにしないメトロマニラ中心街マカティ地区の摩天楼と勢いよく流れる雲が加わったダイナミックな都市風景を表現することができたかもしれません。

長時間露光撮影を行ううえでの留意点

露光時間決定するうえで、信号灯を一定の色に保てる時間設定にすることも一つの要素であろうと考えますが(撮影者によっては信号灯を一定の色としないコンセプトもあるでしょう)、やはり主たる被写体である近景の信号灯と中景の構造物群の「向き」もしくは「整列方向」と動体である雲の流れが同一方向に近いほど、より一層の躍動感を表現できるでしょう。

ここで、この構造物の「向きおよび整列方向」の構図内における配置やバランス等、建築写真の基礎理論全般は紙面の都合上到底およぶことなく、この詳細についてはいつしか別の機会にてお話させていただければと思いますが、構図内において構造物の配置と雲の流れる方向と速度を念入りに検討・観察を行い、露光時間とカメラ側の設定要素との整合性をとりながら、機動的に撮影を行う必要があります。

以上のようなコンセプトを念頭においた同様の撮影コンセプトを2例、ご紹介させていただきます。

Solemn City, Harajuku, Tokyo / Curvaceous Portal, Yokohama

撮影場所・背景

Solemen City (写真左)

NIKON D700, AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8G – 22mm(35mm換算), マニュアル露出(F8、35秒), ISO/200, WB/オート, 12段減光(ND1000+ND4)

Curvaceous Portal (写真右)

SONY Alpha a6000, Sony E PZ 16-50mm, f/3.5-5.6 OS – 24mm(35mm換算), マニュアル露出(F8、77秒), ISO/100, WB/オート, 13段減光(ND1000+ND8)

本作品での昼間長時間露光のねらいと留意点

これらの作品での昼間長時間露光撮影の狙いは、前述のメトロマニラ中心街マカティ地区での撮影と同様、雲という動体を「時間軸という縦のレイヤー」として構図の中に封印し、スタティックな場面をダイナミックな場面へと変貌させることを目的としています。
双方とも構図設定は極めてシビアで数々のコントロールポイントを精密に設定する必要がありますが、それを差し置いたとしても(本連載は昼間長時間露光撮影ですので)、今回お話させていただいているコンセプトを表現することができているかもしれません。

ここで確認していただきたいのは、今回ご紹介させていただいている3枚の作品について、そのカメラ設定、減光段数、そして露光時間も全て異なります。
これは環境光と風速および雲の高度に起因するものであり、先にお話しましたように刻々と変わる状況を念入りに観察しながら柔軟なフィルターワークとカメラ設定の変更を行う必要があるでしょう。

次回に向けて

以上のように、建築系ファインアート・フォトグラフィーの観点に基づいた昼間長時間露光撮影を行ううえで、最も明解なコンセプトの一つとして、今回は「時空の流れが封入されることによる都市風景のダイナミックな表現」についてお話させていただきました。
前述しましたが、建築系ファインアート・フォトグラフィーにおける表現方法(コンセプト設定)とそれを達成するための撮影手法はまさに無限大であり、私が今後、ここヒーコにてお話させていただく内容の全て含めても当該表現方法のほんの一部にすぎないでしょう。

私も2011年から、建築系ファインアート・フォトグラフィーにおける当該手法について積極的な研究をはじめましたが、まだまだ技術面そして感性・感覚の面においても私が思う終着点には到底及ばず、更なる自己研鑽が必要となる課題の山積の前にて呆然としている状況でございますが、本コラムをお読みになっておられる皆様におかれましては、当該表現方法がご自身の作品作りへの一助となれば幸甚です。

次回はまた違ったコンセプト設定を御紹介差し上げます。
それではまたお会いします。

アキラ・タカウエ

バックナンバー

都市風景・建築・土木構造写真における昼間長時間露光撮影

コンセプトが魅せる建造物の長時間露光撮影