「好き」を仕事にしてよかった。写真作家として生きていく方法。

「好き」を仕事にしてよかった。写真作家として生きていく方法。

ヒーコ読者のみなさん、はじめまして。フリーランスフォトグラファーの岡田裕介(@yusukeeokada)です。どうぞよろしくお願いします。

まずは、自己紹介をしたいと思います。

僕はもともとは戦場カメラマンに憧れてフォトグラファーを目指したのですが、ご縁があって広告や音楽分野の人物撮影で活躍されていた山本光男氏に師事しました。2003年にフリーランスとして独立してから数年後、水中写真の魅力に取り憑かれて以降ネイチャーフォトをメインに撮影しています。

撮影の拠点として、沖縄の石垣島にも住んでみましたし、ハワイのオアフ島にも住んでみましたが、現在は東京を拠点に、世界中の海辺の生き物を撮りに旅する毎日です。日本にいることの方が少ないくらい、飛び回ってますね。

水中写真では、バハマやハワイのイルカ、トンガのザトウクジラ、フロリダのマナティなどをよく撮影しています。陸上だと、北極海のシロクマ、フォークランド諸島のペンギンなどですね。海辺の生物をテーマにしています。ネイチャー以外では、ミュージシャンのライブ撮影もしばしば。撮った写真は、雑誌や広告をメインに掲載してもらっています。

作品



8月2日〜8日東京フジフイルム スクエアを皮切りに全国でペンギンの写真展をやります。あわせて写真集も製作したのですが、ネイチャーフォトとしては実はどちらも初めての試みです。今年40歳になるので、これまでやってこなかったアウトプットに挑戦しようと思い立ちまして。

やっぱ撮るのが一番楽しいので、そこだけ夢中にやってきたのですが、そろそろまとめてきちんと発表しなくては!と思って今年は精力的に動いています。

今はありがたいことに仕事が好きなことだけで成り立っています。今回は、こうした機会をいただいたので、この「好き」を仕事にするために写真作家として大切にしていることをテーマにいろいろとお話できればと思っています。

これからさまざまなジャンルで作家を目指したい、という方々への、ちょっとした希望になれば嬉しいです。

写真作家としてのこだわり

被写体だけに捉われない構図

それでは本稿スタートということで書き進めていきたいと思います。

写真作家として活動を続けてきて、自分なりのこだわりと言いますか大切にしていることがあります。その一つは、構図です。

同じ被写体を撮影しても、写真を構成する要素が違えばまったく別の写真になる。写真を一歩踏み込んだ表現にするためには必要不可欠ですね。

水中写真を例にお話をすると、水中写真を撮り始めると生き物が可愛くてつい接写で寄りの写真を撮る方が多いのではないでしょうか。でも僕は、被写体を表現する上で、撮影しているその空間をよく見回し「この場所にいるこの生き物がなぜ魅力的に僕の目に写っているのか」を考えます。

すると、近くの珊瑚や海藻、海に差し込む光の筋、生き物の呼吸の気泡など、その被写体を表現する上で構図に入れた方が魅力的になる要素というものが見えてきます。その要素を見つけて、生き物が目の前にいる一瞬の間に構図を判断することが大切です。

それは動物も人物も一緒。例えばライブ撮影では、アーティストだけでなく、アーティストを神々しく見せている照明の光源や、盛り上がっている様子が伝わる観客の拳を入れたり、はたまた顔のアップでも、眼差しの先に観客が見えるような表情など、その場特有の風景や空気感を1枚の中に閉じ込めたいと思って撮影しています。

クジラなら、トンガの青い海の中で雄大に泳ぐクジラを撮りたい。ライブなら、同じツアー中でもその日その会場を感じるアーティストを撮りたい。そんな気持ちが1枚の写真を作ります。

岡田氏の構図の考え方

  • 被写体をより魅力的にする周りの要素を見つけて構図を作る
  • ネイチャーフォトも人物写真も、同じ考えで構図を作っている

身近な被写体を撮るように、動物を撮ること


陸の動物写真を撮ることも多いのですが、特にサルやペンギンを撮るときには、ついつい家族を投影してしまいます。

例えば、娘が幼稚園の頃って、ちょうどペンギンと同じくらいの身長なんですよね。なので、ひょこひょこ歩くペンギンを見て娘が遊ぶ姿を連想したり、仲睦まじく寄り添うサルの親子を見て、家族に会いたくなったり。

そんな風に感じていると、被写体が動物だからこう撮ろう、みたいな考えじゃなく、まるで人生物語のある人物を撮るような視点になるんです。

僕のネイチャーフォトで一つ特徴的だと言われるのは、動物を人物のポートレイトを撮るように撮影していること。

遠くにいる希少な動物を望遠レンズで撮るより、感覚的に対話しながら距離を測って近づける動物を単焦点レンズを使ってポートレイト的に撮るのが好きです。

これは一つの個性になっていると思います。

被写体に向ける目線

  • 動物だから、人物だから、という先入観を捨てて自由な視点で撮影することが個性に繋がる
  • レンズも撮影ジャンルの定番に捉われず作風に合わせて自由に選ぶ

写真を通して見せたいもの

写真作家さんによって自身の写真を通してやりたいことや目的は違ってくるかと思うのですが、僕が写真を通してやりたいことって、すごく明確なんです。とにかく人に喜んでもらいたい。これが全てです。

アーティストの写真だったら、ファンの方にとにかく喜んでもらいたい、と思いながら撮っています。ありがたいことに、今は人間的にも音楽的にも大好きなアーティストとの仕事がほとんどで、僕自身の感動や喜びはきっとファンのみなさんと同じだと思います。だから、僕がありのままに感じた感動を写真に撮れば、喜んでもらえると信じています。

フォトグラファーとしての特性でいうと、僕は自分の世界観で写真を作り上げるタイプではないんですね。なので自分なりのライティングやセットを組むとか、そういったゼロから作るものは得意ではありません。でも、目の前にあるもの、その瞬間を切り取ることは得意。

ネイチャーフォトを撮っていると、いろんな世界を覗くことができます。

例えば、フォークランドには天敵から見つからない崖の上にペンギンのコロニー(村のようなもの)があります。草むらを覗くとペンギンたちだけが暮らす世界が広がっている。

そういう景色を目の当たりにしたとき、「地球って人間だけのものじゃないな」と当たり前のことを思い出します。頭でわかっているだけじゃなく、実感が湧くんです。全ての生き物は、そこで生きているだけで尊くて美しい。そんな姿を、僕の心が動いた瞬間に切り取って皆さんに届けたいんです。こんな世界もあるんだよ、って。

僕の写真はありのままを届けるものだから、好きって気持ちがなかったら撮れないでしょうし、人に伝わらないと思います。だからこそ、自分が鈍感にならないように、皆さんに喜びを届けたいなと思っています。

写真を撮る上で大事にしていること

  • 写真を通して人に喜んでもらう
  • 自分が大好きなもの、感動できるものを見つけて、それをありのままに撮る
  • 心が動いた瞬間にシャッターを切る

写真作家としての生き方

ネイチャーフォトグラファーになるまで

ネイチャーフォトを撮り始めたのは、25歳を超えてからです。もともとは広告やファッション写真を学んでいましたが、やればやるほど適性がないと感じました。

そこはもう、自分の資質ですよね。無理してやってもしょうがないと思うようになったのですが、それにはきっかけになった会話があります。

あるとき、撮影中にモデルの襟の調整をしている人から「岡田さんこっちの方がいいですよね」って言われたんですね。僕、正直どっちでもいいな、って感じて。そのとき、はっきりとやめようと思いました。ファッションや広告フォトグラファーとしては、一流になれないと思ったんです。

ちょうどその頃、ダイビングに出会いました。

水中の生き物はもちろんですが、雨の日に海の中から空を見上げたら、水面を打つ雨粒に感動したんです。今まで見たことのない世界、視点が海の中には広がっていました。その世界を撮ってみたいなと思って、水中撮影を始めたらどんどんハマっていって。体を動かしながら、自分が感動した光景を切り取ることが、心から楽しいと感じました。

こんな撮影だけをして生きていきたい!と思ったので、それまで所属していたファッション関係のカメラマン事務所を辞めました。

今、僕がネイチャーフォトで生活できているのは、さまざまなご縁や運もありますが、何よりその世界に全身で飛び込む勇気を持てたことが、最初にして最大のポイントだと思います。

好奇心を持って人一倍いろんなものに触れてきたからこそ、自分の資質に合った仕事を見極めることができました。この仕事を続けて歳を重ねていくほど、好きなことを仕事にするのが一番だなと思いますね。

ネイチャーフォトの世界に飛び込んだあとの転機に、コンテストへの応募がありました。

フロリダで撮影したマナティの写真が、日本のナショナルジオグラフィックフォトコンテストでネイチャー部門の最優秀賞を頂き、本国のインタナショナルコンテストで奨励賞を受賞して。写真が世界的に認められた経験は、僕の背中を強く押してくれ、写真を続けていく力となりました。これもコンテストにチャレンジした、その一歩が大きなきっかけですね。

作家として生きていくためには

  • 自分の資質と写真の方向性の相性は大事
  • 夢中になれるものが見つかったら迷わず飛び込む
  • 評価される場に臆することなく挑戦する

ストックフォトを始めたきっかけ、続ける理由

フリーランスフォトグラファーになってネイチャーフォトを撮り始めた頃、そもそもどうやってネイチャーフォトを仕事にすればいいのかとあれこれ考えていた時期がありました。そこで、ネイチャーフォトの先輩に作家活動をしながら撮った写真をお金にしていく手段の一つとして教えてもらったのがストックフォトでした。

せっかくいろんな写真を撮っているので、試しにやってみようと思って始めました。それから、かれこれもう10年以上続けています。続けていて嬉しいことも、たくさんありました。

預けていた写真が使われているのを生活の中でたまたま見かける、ということが起こるようになって。僕はこれがめちゃくちゃ嬉しいんですよ。自分が直接届けられる範囲を超えて、たくさんの人に僕の写真を見てもらえるって本当に幸せなんです。

撮った写真を買ってくれる人がいる、というのは一つの評価の基準にもなりますし、写真を使ってもらえる機会の一つ一つに喜びがあって、それは今も昔も変わらない気持ちですね。

ストックフォトを続けていて良かったこと

  • 作家活動を中心にしながらも、自分の写真をマネタイズする手段が出来る
  • 自分が届けられないところにも、写真を見てもらえる機会が増える

自分が好きなように撮った写真が、そのままストックフォトに

一つのことを長く続けるのは本当に難しいと思うのですが、先ほどもお話ししたように、僕はストックフォトを10年以上続けています。

ストックフォトのいいところは、作品として撮った写真もそのまま載せられるところだと思っています。

ネイチャーフォトでは、一瞬のシャッターチャンスを狙うことが多く、使用イメージを想定して工夫した構図を作る余裕がなかなかありません。なので、基本的にストックフォト用に写真を考えて撮ることはせず、自分の撮りたいように撮っています。あと、もっと単純なところでいうと、僕自身あまり器用じゃないので、写真を撮り分けるといったことがなかなかできないんです。

ストックフォトを始めたばかりの頃は「文字を入れる余白を取るために空を多めにしてみよう」といったことも考えていましたが、そうすると駄目なんですよ。撮れた写真が自分のものではなくなってしまう。現場であれこれと工夫しようとするとかえって写真のクオリティーを下げてしまうと思い、撮り分けることは辞めました。

僕がストックフォトをずっと使い続けられている理由には、細かい規定がない、というのが大きいです。自分で好きなように撮った写真を使ってもらえるのは、ありがたいですね。

ストックフォトと作家性

  • ストックフォトにおいても、普段の撮影スタイルは変えない
  • ストックフォト性より写真のクオリティーや自身の作家性を優先する
  • ストックフォトは自由度が高い

好きな仕事をするということ

一生撮っていたい被写体を見つける

僕は今の仕事が本当に大好きで、好きなものだけを撮って、お金をもらえているわけで、この「好き」という基準は経験則からとても大事にしています。請負でいただいた仕事でも、被写体が好きじゃないと続かないことは、やってみて分かりました。自分の資質にあっていないものは、例えご依頼頂いてもお断りさせていただくことが多いです。

いろんなものに触れてみて、撮ってみて、自分が無理なく続けられる、これなら一生撮っていたい、そんな被写体を見つけられたことが、僕の人生における大きなラッキーで、ストックフォトに出会えたのも、この仕事を続けていく上でラッキーの一つだったと思っています。

作家としてのスタイルを変えずにできるストックフォト

これからストックフォトをやってみよう、と考えている方には、あまり気負わずにトライしてみてほしいです。

自分が好きな被写体であれば仕事でなくても撮るはずなので、その写真をついでに載せてみよう、くらいの気持ちでも構わないと思います。僕自身、試しにやってみよう、って気軽な気持ちで始めたものが、こんなに続くと思っていませんでしたから。

フォトグラファーとしての自身のスタイルをそのままにできる。ストックフォトを継続できている、一番の理由だと思います。

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岡田裕介 写真展 「Colors ~ペンギン島の物語~

岡田裕介 写真展

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