SNS世界に生きる皆さん、こんにちは、別所(@TakahiroBessho)です。ついにヒーコから、新しい時代に手向ける新しい「詩」(と書いて「うた」って読んで!)となる本、「SNS時代のフォトグラファーガイドブック」が発売されます。
しかしですね、この本、僕自身のnoteでも書いたように、類書にない試みになってます。筆者である僕たち自身も、書きはじめの頃は五里霧中のゴールがどこにあるか分からなかったような、そんな本なのですね。
ということで、全体を素描できるようなまとめを準備しているこのシリーズ。僕は最後の「第七章」ということで、最後の最後にもう一回議論全体をひっくり返して壊す役割を背負っております。まとめる気持ちなんてサラサラございません、もう一回混乱しようぜ!ということで、ぜひ発売前にご一読いただければと思っております。
「呪われた魔法の杖」の本質を見極める。SNSと写真の関係性について
SNSと写真の「関係性」
メディアとの関係性
僕の担当の第7章では、SNSと写真の「関係性」について考察しています。そしてそれは必然的にSNSのメディア的特性の考察を必要とするでしょうし、それを使う我々自身の立ち位置の考察になります。そしてそれは突き詰めれば、SNS時代と称しても良い21世紀前半を生きる我々の、メディアとの関係性について想いを馳せることにもなります。
考察を始めるにあたって、まず僕は、SNSの特質を一言で表すとするならば、どういうものになるだろう?と考えました。SNSはもちろん、今や写真家のみならず、あらゆるクリエーター、あるいは個人で仕事をするフリーランスたちにとっては、必須も必須、これなしではどうにもならないようなツールです。
SNSの本質
「呪い」の効果
一方、SNSは皆さんもご存知の通り、すぐに燃えます。Twitterなんて、毎日どこかで誰かが燃えているような、そんな場所です。
ほんの少しの間違いや、それどころか単なるとばっちりで、その人の過去現在未来全部ひっくるめて、灰燼に帰してしまうような、そういう破壊的な可燃性を持ったものがSNSでもあります。
つまり、使えば強烈な力を発揮する一方、それは常に 自分をも破壊しかねない反作用があるツールであるSNSを、僕はこの章で「呪われた魔法の杖」と呼びました。ドラクエとかでよくあるやつですね。めちゃめちゃ強力な効果はあるけど、使えばなにか必ずマイナスの効果を発するような武器。例えば僕なら懐かしいドラクエ3の「おうごんのつめ」とか、ファイナルファンタジーの「もろはのつるぎ」を思い出します。
「魔法」の効果
ただ、こうした長所と短所は実際には切り分けることはできません。「呪われた魔法の杖」という特質は、SNSの持っている力のコインの裏表であり、どちらか「だけ」を選んで使うことはできません。でも、注意深くその力の本質を見極めれば、「呪い」は最小限にして、「魔法」の効果を最大限に発揮することもできるようになります。
では、この呪われた魔法の杖の力の本質とはなんなのでしょう。
それは言わずもがなですが、「拡散力」です。
SNSは距離を変える
「近くの人」と作る小さなコミュニティが自分の「世界」だった
人間同士が「横」につながっているのがSNSです。もちろんこれまでも、我々の社会は身近な人達を「横」につないで、共同体を形成して生きてきました。ですが、物理的な距離が長くなればなるほど、そのつながりの強度は指数的に減っていきます。結局我々は21世紀に入るまでは「近くの人」と作る小さなコミュニティを自分の「世界」として生きてきたんですね。
SNSは「距離」を、限りなくゼロに近づける
ですが、SNS、ないしはネットワーク空間は、この「距離」を、限りなくゼロに近いものにします。原理的に「横」向きにつながるすべての人は、ゼロ距離で自分の近い場所にいます。それがもたらす情報の拡散効果は、これまで狭い場所で生きてきた我々にとっては、想像もつかないような巨大なものです。
一瞬で世界の裏側まで自分の情報が伝達する。
これがSNSにおける「距離をゼロにする拡散力」です。
写真は「時間の速さ」に最も適した性質がある
タイムラインは時間を構造化している
そしてもう一つ、実はSNSには拡散力を強める要素があります。
それが「タイムライン」の存在です。
Twitterの様に明確に可視化されているものもあれば、Pinterestのように一見「時間」が見えなくなっているSNSもありますが、SNSのシステム上の最も強い特性は、それが「時間を構造化していること」なんです。難しい言い方をしていますが、早い話が、一瞬で情報は「過去」へと流れていってしまう。
写真を見る0.2秒
これは一見すると、「情報を流したい」と思っているユーザーにとっては、不利な特質です。実際、10万程度のフォロワーがいても、人の目を惹かない情報だと、一瞬で過去に流れ、「いいね」はせいぜい10や20ということもザラにあります。
でも、この「誰もが一瞬しか自分を見てくれない」というのは、実は「写真」に限っては、あるポジティブな要素として働くこともあります。
それは、「写真を見るのにかかる時間はせいぜい0.2秒である」ということです。
写真だけが短時間で人を引きつける
写真は、0.2秒あれば、それを見た人を引きつけるポテンシャルを持っています。文字も動画も、それはなかなか難しい。写真だけが、これほどまでに短時間で人を引きつけることができる。
そのため、ある写真が素晴らしい力を持っていれば、それに感動した人がそれをリツイートやシェアなどで共有する時間も、ほんの僅かです。時間が圧倒的に速く進むがゆえに、その「拡散」も、凄まじいスピードです。最近はツイッターで何万もリツイートされる写真が回ってきますが、動画や文章よりもその割合がおおいのは、写真こそがSNSの持っている「時間の速さ」に最も適した性質があるからです。
「コト」を動かす「言葉」
「言葉」の持つちから
ただ、そうした「速さ」に対して、どのように我々は対応していけばいいのでしょうか?「特質」を知って、その「力」の本質が分かったところで、それへの対処方法がわからなければ翻弄されるだけです。そこで一つまず本書でお伝えしたのは、「言葉」の持つちからです。
僕自身が文学研究者だからこういうことを言いがちなのかもしれませんが、人間が持つ究極の力の一つは「言葉」です。というよりも、世界はモノではなく「コト」で出来上がっているのが、肥大化した脳を持つ我々人間の世界。
我々の世界は、モノを「言葉」で意味づけて「コト」にすることで動いている。であるならば、その「コト」を動かす「言葉」をうまく使えば、一枚の写真に、より多様な意味付けを与えられる。本書ではその具体的な例を、ある一枚の飛行機の写真と湖の写真を例にして解説しています。
大きな燃料を保持している現象
そしてもう一つ、「言葉」で対処しなければならないのは、冒頭で書いた「炎上」の問題です。多くの場合、「炎上」とは、間違った言葉の使い方によって、「コト」が間違った方向に誘導されている状態になっている場合が多い。でも、そもそも「炎上」するような情報は、ポテンシャルとしては大きな燃料を保持している現象である場合が多いのです。
第7章の最後では、SNSを語る上で避けて通ることができない「炎上」の中に潜む、次へとつながる灯火のような暖かい火の存在を見出すために何をやるべきか、具体例を取り上げて解説しています。詳しくはぜひ本書をお手にとっていただければ幸いです。
私の写真とSNS
#私の写真とSNSの企画も進行中!ぜひ皆さんとSNS、そして写真との関係についてつぶやいたり写真をアップしたりしてみてください。ここにいる筆者は、全員、SNSが始まる前には「何者でもない存在」でした。
SNSを通じて、こんな本まで出しちゃうような、そんな世界線に乗っかることができた。そしておそらくはこれからも、「SNSの申し子」たちがたくさん出てくることでしょう。その全ては、SNSに広がる混沌の中から生まれた成果。
ぜひとも皆さん自身のカオティックな体験や写真のご投稿、お待ちしてます!