写真と生きる | 笠井爾示 x 黒田明臣 対談「撮り続けた先の0.5%」

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今回は、現在発売中の写真集「東京の恋人」や渋谷ヒカリエでの同名個展の開催を12月に控えながら、11月末発売予定の写真集「となりの川上さん」など、幅広くご活躍中のフォトグラファーである笠井爾示(かさい ちかし)氏と、ヒーコ黒田明臣による対談をお届けします。

回を重ねるごとにボリュームが大きくなる本連載ですが、秋の夜長が終わる前に是非♫

撮り続けた先にあるもの

それぞれのルーツ

[黒田]

今日はお時間作っていただいてありがとうございます。この連載は、「写真と生きる」というタイトルでやってまして、笠井さんのように商業第一線でやられているような方から、アマチュアで写真を楽しんでいる方まで、写真を生活の一部としている方々をご紹介しています。今回は対談という形で、自分のように元々写真と全く関係のない仕事をしていた人間と、笠井さんのように写真一筋で生きてこられた方の違いや考えなんかを浮き彫りにできたらなと思っています。

[笠井]

はい。よろしくおねがいします。黒田君は元々は何をしてたんだっけ?

[黒田]

自分ですか? 今でもそうですが、フリーランスでエンジニアをやってたんです。三ヶ月に一回カメラ出すかくらいの感じで旅行中に写真を撮ったりしていたんですけど、ポートレート専科という展示があったじゃないですか。その存在を知って出展を勧められて、出ることになり。そこからですね、今こんな風になっているのは。

[笠井]

魚住さん(*)のね。

[黒田]

そうです。ちょうど三年前ですね。オーディションを受けてみたらたまたま展示できることになって、展示してという経緯でした。

そうしたらたぶん共通の知り合いもいらっしゃると思うんですけど。みんな熱中してるというか、写真に対する熱量が自分とは全く違っていてすごく衝撃でした。皆さんずっと写真のことを考えてるし、ずっと写真のことをしゃべってるし、人をここまで熱中させる魅力が写真にはあるのかも。「確かに」と思って、それから人を撮り始めたんです。いわゆる作品撮りというか。で、あれよあれよとやっていたら今に至ります。

[笠井]

写真家になっちゃった。

[黒田]

写真家と言えるのかはわからないですけど(笑)
同じように熱量向けるようになっちゃって、こうして仕事になってしまったという感じですね。
そういえば、これまで色々な写真集など拝見して思ったんですけど、笠井さんの作品って迫る感じがあって色も独特ですよね。ポジっぽいというか。

[笠井]

基本フイルムのころはポジで撮ってたからかな。
ネガで撮ったことはないんだよね。ネガプリントとかも一切したことない。
モノクロは自分でプリントしてたけど、カラーでのプリントは一切自分でしたことなくて。

僕の作品集も、仕事も、全部ポジで撮ってた。

[黒田]

あ、そうなんですね。当時のことは何も知りませんが、ネガが主流なのかと思ってました。ポジのみってすごいですね、露出とか大変そうな(笑)。それが普通だったのかもしれないですけど。

ポジフィルム / リバーサルフィルム
フィルムの種類。ネガフィルムと比較して、露光の範囲が狭いため露光補正の範囲が限られている。撮影時に正確な露出測定が求められる。

Wikipedia ネガフィルム / ポジフィルム

[笠井]

時代的にはもう90年代が圧倒的にネガだったんだよね。だけど元はというとポジのほうが主流だったらしいのよ、昔は。

[黒田]

そうなんですか、80年代とかですか?

[笠井]

そうそう、80年代とか、その前とかね。特にグラビアとかもポジのほうが多かった。

[黒田]

意外ですね〜。というか当時の皆さんはやっぱり凄いですね。ポジで仕事とか露出失敗するのが怖くて考えられないです。

[笠井]

その場でね、きちんと露出を決めないといけないからね。アンダーに撮っちゃったらアンダーにしかならないから。

[黒田]

自分の感覚だともう融通きかないなっていう印象なんですよ、そういうのも(笑)

[笠井]

だから露出は神経質に測ってた、当時。常に露出計は使っていたかな。でも今ポジで撮るのは経済的に無理だよね。だってフイルム自体はいくらくらいするのかな?1500円?

[黒田]

35ミリだったら普通にもうちょっと安いのありますね。1000円ちょっとくらいの。ベルビアでしたっけ? プロビアは1500円くらいですよね。

[笠井]

僕はプロビアよく使ってたけどね。

[黒田]

最近の作品もプロビアっぽい感じの色に見えますよ。肌の色とか。

[笠井]

そう、プロビアっぽくしてるんだよ。

[黒田]

あ、そうなんですね。フイルムで撮られてた当時のスタイルがデジタルに移り変わっていったと思うんですけど、色味とかは今の作品にも反映されているんですね。

仕事の流儀

写真集「東京の恋人」より
[黒田]

自分のイメージだと、笠井さんの作風って、いわゆる広告とか商業でやってる「ザ・プロカメラマン」という感じより、すごい作家性みたいなところのほうがイメージとしてあります。

自分が主にやる仕事なんかはもう、これ撮るって大体決まっていて、そこに自分の好み、たとえば構図であったりとか、タイミングとか、写真編集的な、ビジュアル的な部分で介入する余地があまりないんですよね。そうすると結果的に自分の写真かなこれ?と思ったりすることも多いんです。雑誌やカメラ誌なんかは比較的自由なんですけど。

笠井さんの写真って、仕事で載せられてるものとか、「あ、笠井さんの写真だな」っていうのがわかる仕事が多いというか。

[笠井]

単純に言えるのは、けっこう仕事の写真は仕事として撮っていることが多いよ。そうせざるを得ないっていうか、あんまり僕の作品性云々っていうことを第一に考えて仕事をしてるわけではないんだよね。

やっぱり仕事のジャンルにもよるかな。あとで仕事のブックを見せてもいいんだけど、それ見るといろんなパターンの写真があって、「え、こんなのも撮ってんの」みたいな感じになると思うよ。

[黒田]

お〜、それは見たいですね!

[笠井]

だから仕事は仕事としてやっている部分は僕にもある。それは長年を通してそういうことをやってきていて、全部が全部、この仕事やってます、あの仕事やってますって自分でも言ってないし、隠してるわけでもないんだけど。まあ全部名前は載ってるわけだから。名前が載らないのは広告くらい。そんなに広告はやってないんだけどね。

[黒田]

そうですね、あんまり広告のイメージないですね。

[笠井]

年に何回かやるみたいな感じで。こういうのは当然名前が載らないし。でも雑誌とかそういうのは、やればかならず載るし。

だから別に、あんまり仕事のときに、ものすごく自分の作家性とかっていうものに無理やり近づけたりとか、そういう方向でやりたいっていう風には実はやってない。実は。ただ、たとえばタレント写真集とか、ああいうものはスタイルとしては普段僕がやっているものに近いスタイルでできるから、ちょっとは作品性が高くなる可能性はあるね。

普段やってる雑誌の仕事って、取材が多いんだけど、そういうのって撮影時間10分もないとかだし。僕が二十数年間仕事してきた中ですごい顕著なのは、たとえば映画のプロモーションとか、音楽のプロモーションとかっていうのは、ものすごい合理化されてきているんだよね、取材の形態が。

[黒田]

ワークフロー的な感じですか?

[笠井]

そうそう。それはたぶんインターネットっていうものが出てからのことだと思うんだけど。

インターネットがない時代っていうのは、雑誌が一番のプロモーションだったから、ものすごくそこに力を入れていたんだよね。プロモーションする側も力入れてたし、やる側も力入れてて。たとえば一例として言えば、ある映画ができて、そのプロモーションをやります。その主演の人はいろんな雑誌に出るときに、この雑誌だったら半日かけてやろうとか、半日かけて撮りましょうとなる。

そしたらいろいろ、いろんな場所に行って撮れたりとか、そこに時間もかけられたり、ってことができたんだけど。

今だと、雑誌で表紙巻頭で何十ページっていうのだったら昔みたいな形態もあるかもしれないけど、最近はもう映画のプロモーションと言ったら、二日間スタジオ借り切っちゃって、いろんな媒体がそこにあつまって、いっぺんに撮影するとかが多いんじゃないかな。これは良い悪いの話を言ってるわけじゃないんだけど、結局、そういう流れになってきている。そしてその中でやってることがほとんどなの。

[黒田]

自分はそこまで多くないんですけど、たしかにそういう合同取材みたいな仕事を請けることもありますね。ただそれが当たり前なのかと思ってましたが、昔はまた違ったんですね。

[笠井]

昔は今言ったように、もうちょっと紙媒体に力を入れてたから、プロモーションって。

今ってどっちかっていうと、ネットで先行して配信されるとか、SNSで拡散とか方がやっぱり早いから、あんまり力を入れなくなったっていうのは事実だと思うし。

[黒田]

そうなんですね。自分が見ている限りですけど、笠井さんはじめ昔からご活躍中の先輩方ってあんまりこれやったよって言うわけでもないじゃないですか。自分なんかはウェブに育ててもらった部分があるのでウェブや雑誌の案件であればPRすることも多いんですけど。だから見ている部分が一部というのは大きいかもですね〜。

しかしこう、作家性を出してるかどうかっていう言い方ではないにしても、笠井さんの仕事写真をみていても二人三脚でやっているようなイメージはすごいあって。

[笠井]

二人三脚っていうのは?

[黒田]

モデルの方とですね。勝手な想像ですけど、ここいいねっていう感じで光や場所をみて撮ったりとか、撮る写真の構図だったりとか場所が自由というか。広告とかそういう決まりきったラフありの撮影でもなく、来てもらって10分で撮って終わりっていう感じでもないし、モデルの方とコミュニケーションがあった上で撮られているというか。

まあなんて表現したらいいかわからないですけど(笑)
そういうイメージはすごくあったんですよね。なので合同取材っぽい撮影もされてるっていうのは意外でした。

[笠井]

時期とかにもよるんだけど、でも半分以上そんなもんだよ。

[黒田]

結構雑誌って、そういう形態が多いんですか?

[笠井]

雑誌はほとんどそうだね。

たまに表紙巻頭何ページやりますっていうときに、すごい時間をもらったりとかっていうのはあるけど。それでも昔のほうが2、3ページの写真でも、結構時間をもらえたりとか、どこどこ行ってもいいとか。たぶん単純に、予算もあんまり出ないとか、色々な要素が絡んでるんだと思うんだけど。そういう意味では自由は少なくなってはいるんだけど、ただそこを強みにしてるわけではないんだけど、仕事に関して僕はすごい早いの。

早いし、迷わないし、ぱっとやったらすぐ決めちゃう、みたいな。たとえば、20分撮影時間もらってても、大体5分くらい余るとか。それは今の環境に合わせてそうしてるわけじゃなくて、もともとそうで。自分でそこの部分を買ってもらってるんだなっていう実感はないけど。

[黒田]

プラスアルファぐらいな。

[笠井]

でもそれがあって、オファーが来ることは多い。

どの環境にも対応するし、ああいう取材とかって不測の事態も起きるし、いろいろとね。「雑誌で仕事するにはどうしたら良いですか」って聞かれたら、とにかく決断力が大事だと言うかな。場数が踏めるかとか。

いい絵を撮れるとか、技術がどうとかではなくて、その場に行ってその場にすぐ順応できて、すぐに結果を出せる人が仕事できるよってことだと思うし。それはもう確実にそうで、昔からやってきてる上のカメラマンも、そういうスキルを身につけて今でもやってるんだと思うのね。

[黒田]

応用力というか。

[笠井]

本当、そこだけ。そういうときに、あんまり作品性とか、頭にはないっていうか。

[黒田]

だから早いというか、ある種、雑誌を撮るにあたって、非常に効率的なスタイルですね。

[笠井]

あとこれは作品と共通する部分だと思うんだけど。絵コンテがあって、こういうものがありますっていって。広告なんかも特にそうなんだけど。これは当たり前の話なんだけど、言っちゃえば絵に近づけていく作業。

雑誌の仕事は、僕の場合はだけど、じゃあこういう絵を撮ろうっていうのは一切考えないの、現場入るまで。たとえばページ数がある程度あって、こういうコンセプトでっていうのはあるかもしれないし、そういうのは打ち合わせの中ですりあわせていくとかそのぐらいはあると思うし、この被写体だったらこういう絵が欲しいですっていう要望があったらやるんだけど。事前に絵は考えない。

色々なコンセプトとか、やんなきゃいけないものだけはちゃんとイメージして頭に入れといて、実際じゃあこうしてこうしてこういう絵を撮ろうっていうのは、現場に入るまで想定しなくて。

どっちかっていうと、撮影を始めてからそれを作り上げていくっていうか、自分の中でこういうことだな、みたいな感じにしていくっていう流れで撮影するのね。それは30分の撮影だろうが、一時間の撮影だろうが、5分の撮影だろうが、一緒なの、これは。

[黒田]

5分でもですか(笑)

[笠井]

5分でも。ある程度決まってるよ。箱も、ライティングも決まってるし。

でも最終的に人が目の前にいて、その人をどう撮るかっていうのは、カメラを構えて実際に撮り始めてから作り上げるものだと思う。

僕はそういうやり方をしていて、たぶん被写体もなんとなくそれに合わせていくんだと思うの。うまくいるとのっていくんだけど、絶対にどっかで被写体はテンションが落ちるの。テンション落ちて、マックスまでいった後は、テンションが平たくなっちゃうみたいな。それは撮ってると僕もわかるし、テンションがあがるまでに、4ページだったら4ページ撮る、10ページだったら10ページ撮る、1ページだったら1ページ撮るっていう風に決めてすすめていく感じ。これ以上撮っても変わらないなってなったら、例えばそのときに20分与えられてたんだけど、まだ15分しか撮ってない、ってなっても、それでやめちゃうの。5分あるけど大丈夫ですかって言われても、これ以上撮ってもという感じになる。

それはやっぱり、そういうテンションの持っていき方って、おそらく最初から絵を作っていて、その通りに持っていくやり方とは違うと思うんだよね。だからどっちかっていうとやっぱり、一対一でやりあうみたいなところがあって。もしかしたら、作品性に近い部分を感じるとしたら、そういう部分なんだと思う。

[黒田]

きっとそこなんでしょうね、自分が二人三脚でやってるような一体感を感じたのは。すごく納得感あります。納得感あるというか、ポートレート撮ってると感じるというか。あまりライトな読者向けではないマニアックな内容って言ったら、それまでなんですけど。カメラマン同士のって感じもありますけど。その感覚はでも、わかりますね。自分は昔、絵コンテじゃないですけど、こう撮ろうってある程度決めてた時期もあったんですが、今は化学反応みたいなのを大事にしてます。

しかしその文脈で作品性を感じている部分はありますね。モデルの方の反応とか表情とか、そういう部分のところに何かしら、笠井さんの写真だなと思う部分があるというか。その場の化学反応って言ったらあれですけど、カメラを構えてからの何か。

[笠井]

僕も実は、毎回それをやることで成功するとは思ってないっていうか。自信を持ってやってるわけではないというか。

[黒田]

そういう不安もあるというところは少し安心しました(笑)同じ人間だった。みたいな。

[笠井]

結局やっぱり、いろんな仕事の仕方があって、事前に被写体と会って、ある程度被写体のことを理解して、向こうが思ってることも聞いてっていう流れもタレント写真集とか、そういう大きい撮影のときはそういうこともあり得るんだけど、大半のプロモーションとか雑誌の取材っていうのは、自分がカメラを持って本人がスタンドインするときにはじめて顔を合わせる事も多いから。そこでこうしましょうああしましょうっていうのも含めて撮影時間になっちゃうわけだよね。特にこっちは、こうしてくださいああしてくださいっていうのはないから、撮り始めるしかない。

だからある種、仕事行くまでっていうのはものすごい緊張しているし。緊張している風には端から見えないかもしれないけど。でもそれなりの緊張感は持ってやってるし。逆に、大丈夫だよみたいな、チャラいイメージで自分がそこに行っちゃうと、あとでいろいろ失敗しちゃうんだよね。僕はどっちかっていうと、用心深いっていうか、緊張してるってことは、それなりに、ああなったときにこうしようとか、いろいろ考えてるんだけど。ただそれはこういう絵にするっていうことを考えているわけではなくて、人と対峙したときにどうしようかということをね。

[黒田]

プランB、Cぐらいは考えてはいるけど、このポーズで撮ろうとか、そういう話じゃないってことですね。

[笠井]

じゃない。でもあんまりそれで大きくコケたことはないの、実は。全然噛み合わなかったりってことは、あんまりなくて。

[黒田]

それはそれこそ、職人の域というか。今ってなんでも定量化されて、方法論みたいなのがあって、こうしておけば大丈夫ってなりがちですけど、言葉とか理論で形にできないけど、スキルというか、あるじゃないですか、その人の。

そこがだんだん経験値となって磨かれているんですかね

[笠井]

毎回びびるけどね。

[黒田]

それも意外ですね〜。

[笠井]

でもそれは写真をやってるからとかではなくて、やっぱ一応5分与えられたら、すごい真面目なこと言っちゃえば、その5分で、人様に見せられて、お金を払ってもらうような写真をそこで撮らなきゃいけないっていうのはあるから。なおかつ相手の被写体をすごくよく見せるとか、そういったことも、頭にあるから。そうすると、今日イージーだよみたいな、そんな感じにはならないというか。

常に写真家であるという事

写真集「東京の恋人」より
[黒田]

そこは確かに。

そういえば直接お話できる機会にこそ聞きたかった事がありました。

さっき仕事でやりはじめると自分の写真云々考えている余裕がないって話がありましたけど、商業に入ると第一優先事項はクライアントがいて仕事であるってところですよね。その一方で、趣味でやってる人の写真は、やりたい事の純粋な結晶というか、やっていることはきっと毎回、自身の集大成でもあるはずじゃないですか。ただ、笠井さんは、今回展示される花の写真とかポートレートを撮るとか、自分の趣味の領域があるじゃないですか。まあここが言葉の定義に神経を使うところなんですけど(笑)写真家的領域というか。

笠井さんから見て、写真を撮るという行為と写真家としての関係性っていうんですかね、そのあたりをどう見てるのかなっていうお話をちょっと聞けたらいいなと思っています。きっと写真に熱中していない人間からしてみると、仕事で写真撮って、「趣味でもなんで写真撮ってるの?」という考え方もあると思っていて。

[笠井]

たぶん人それぞれだとは思うんだけど。僕の場合は、若干極端な言い回しになっちゃうんだけど、基本どのタイミングでも、写真家であろうっていう意識は持とうとしてるの。

たとえば今話しててもそうだと思うし、どっか飲みに行っててもそうだと思うし、自慢とか誇張でもなんでもなくて、普通にどっかコンビニ行くときとかでも、一応カメラ持って行くとか。そういう日々の行為っていうのかな、あんまり頭で「僕は写真家だ、写真家だ・・・」っていうのはもちろんないけど、少なくとも手元にカメラがあるっていうのは、そういう意識でずっといるっていうことだと思うし。

それを無理やりやってるわけでもないというか、あんまりそういうことはないんだけど。なんかのときにカメラを持ってなくて、っていうタイミングがあって、すごく「あれっ、自分何もできない」という瞬間、たまにだけどあって。自分もやっぱり人間だから、カメラを忘れたりするわけよ。

家に忘れたりとか、どっかに。「あれ、カメラない」みたいな。

そのときの喪失感っていうか、それをやっぱりすごく感じてしまうから、やっぱり手元にカメラがないとっていうのは。

[黒田]

ないと不安というか、撮りたいなってときに、なかった経験みたいなところの喪失感ですか?

[笠井]

具体的に、撮りたいものがあったけど撮れなかったっていう、そういう具体的なことではないんだけど。でも自分に今何もないって思ったときに、っていうのを思うと喪失感というか。

あとたとえば、今度発売される「となりの川上さん」って写真集、あれを見た人は、もしかしてこの2人付き合ってるんじゃないかって思うと思う。ただあれは、付き合ってる人同士が撮ったとかそういう間柄の写真ではない。僕はあれに対して、どういう関係性かってことは別に秘密にしようとも思ってないし、かといってあからさまにしようとも思ってないのね。

もちろん色々な関係性はあると思うの。男でもあるし、女でもあるし、だけどどんな関係性であったとしても、僕がその場で写真を撮って、最終的にこうやって表に出るっていう意味においては、どこまでいっても写真家と被写体の関係性なんだよね。

たとえば一緒に彼女の部屋に泊まった、ごはん食べた、ホテル行ったとかそういう諸々って、写真をはずしてしまったら、お前らどういう関係性なんだってなるとは思うけど。

だけどやっぱり、あれがこうやって写真集として成立してるってことは、僕がそれに対して主張するまでもなく、客観的に見たとしても、これは写真家と被写体の関係性なんだっていうことは、自分ですら思うわけで。

それを日常的にやってるわけだから、趣味っていう言い方が間違ってるとは僕は思わないけど、趣味ともちょっと違うっていうか。

[黒田]

確かに。便宜上趣味って言いましたけど、どちらかというと一般的に趣味でやっている人たちが撮る理由と、笠井さん含め我々がオフで撮るということは、何か違うと思うと直感的に思っていて、それが写真家的行為なのかどうかという話になるのかもですね。

これは自分の考えでもありますけど、写真を撮るっていう行為自体、つまりシャッターを押すっていうミクロのレベルまで行くと、あんまり違いもないというか。つまりペンを持っているからといって、みんなが絵を描くわけじゃないなと思っていて。でもそれぞれシャッターを押す意味は違うというか。写真として見てみると私的なものとして見えてくる部分もある。まさに「となりの川上さん」の話もそうですね。そのあたりの言葉や形にできないけど確実に存在する境界みたいなの。すごくおもしろいです。

[笠井]

黒田君とか僕らは、写真を日頃からやってるから、そこに対して免疫もあるだろうし、そういうもんだなって思うもんかもしれないけど。

普段の常識では測れないものを、うちらは当たり前のようにやっていて、当たり前のように受け入れていて、ある種そうじゃない人たちも、そこはわかってもらえてるわけ。

あんまり表現っていう言い方は好きじゃないんだけど、全部性的な欲ではなくて、ある意味そこを超えて表現はしてるから。

そこが面白いわけじゃない。

[黒田]

ですね〜。面白い感じしますね。
自分なんか、まだ写真やってなかったころの感覚っていうのがまだ若干あるんで、たまにふと違和感を感じるんですよね(笑)
たとえばヌードを撮るっていう行為なんかは、まったく理解の及ばない世界でした。

写真と出会った原点

写真集「東京の恋人」より
[黒田]

まさに我々がやってる行為というか、普通の方々とかからすると、理解の外側にあるよねっていうところにも触れたいですね。

極端な話、撮影をしにその子を撮りに行こうよって、お出かけ自体もよくわからなかった部分があって。
写真をはじめるまではカメラはついでだったのに、今では当たり前のように写真の為に出かけるようになって。
そうしたら今度は、笠井さんや他の写真家の方々のように何においてもカメラを持ち歩いている方の存在も知って(笑)

その一方で世の中にはやはり、家族写真だったり、インスタ映えだったり、記念のためだったりが主流な気もします。色んな楽しみ方があって、中にはこうして深くハマっている人間もいるという、写真はそれだけの魅力を持ってるんだっていうところ、魔力と言ってもいいかもしれないですけど、もうちょっと掘り下げたいですね。

笠井さんの場合って、仕事にされる前からもけっこう写真は撮られてたんですか?

[笠井]

そんな長くは撮ってない。
一応学校の選択科目で暗室教室というのがあって、それを選択したのがはじまりかな。

[黒田]

そうなんですね。今と違ってフイルムだと、ある程度参入障壁というか、写真をはじめる難易度って高いですよね。当時から日常を撮ったりとか、楽しんだりとかはしてたんですか?

[笠井]

実際、当時のことって曖昧だから、あれだけど。

便宜上僕がいつも言ってるのは、写真を暗室でやるようになって、写真って面白いなっていう感覚はあったんだけど、じゃあ何を撮ればいいのかっていうのは自分の中に何もなかったし、ましてはそれで表現をしようっていうのもなかったし。

ただ、暗室作業をするためには写真がないと成立しないからっていうのがあって。ものすごい打算で、じゃあ日記にすりゃいいじゃん、ってなったのよ。日記を撮ればいいじゃん、ってなったの、僕の中で。

[黒田]

日記そのものが写真ですか?

[笠井]

日記として写真を撮ればいいじゃんって思ったの。

それは僕の中で絵日記と何も変わらなくて。絵日記なんて作品になりうると思わないじゃん。だからそういう意味では、アートとか表現とかそういうことではなくて、本当に日記としてだったらやれるじゃんっていう感覚、本当、打算。で、これも日記、これも日記みたいな、なんでもOKじゃんっていうことで、自分の中でとりあえず日記として写真を撮り始めたの。その頃はネオパン400プレストで撮ってたんだけど、それはあくまで暗室で焼くための言い訳みたいな。

[黒田]

素材としてですね。

[笠井]

そう。そういうとこから僕は始めて、そこから「じゃあどんな写真家が世の中にいるんだろう」って、そこではじめてピンときて。もしかしたらメイプルソープとかは知ってたかもしれないけど、例えば荒木さんっていう人がいるのは知らなくて。
ふと、本屋に行けば写真集があるだろうと思って行ってみた。

その情景はすごい覚えてるんだよね。そのときのことを。エスカレーターで下りていって、右側に本屋があるっていうところまで、全部。

[黒田]

結構細かく覚えてるもんですね。

[笠井]

そこはね、本当によく情景として覚えてるんだけど。行ってぱっと見たら、荒木経惟、荒木経惟・・・ってすごい本があって。

そのときにはじめて、こういう人がいるんだと思って、ぱっと中をのぞいて見たら日記だったの。「写狂人日記」っていう日記をやってて、僕の中ではそれが、雷が落ちるくらいの衝撃だった。

要するに、自分が適当に打算で、これでいいやって考えてやってたことを、まじまじとやってる人がいると思って。しかもちゃんと本になっていて、何冊もそれがあって、ばっと見たら、当時って荒木さん結構、日記でもいろんな有名人をばんばんそこに入れてたから。

今はそういうのあんまりしなくなっちゃったんだけど、やっぱり、肖像権だなんだっていろいろ言われるようになったからあれなんだけど。当時は容赦なくいろんな人が写ってて、ヌードはあるし。それで最初、あれ僕と同じことやってるって思ったんだけど、ふとなんか、この人はなんなんだってなって、そっから一気に荒木さんにもう魅入っちゃって。

その頃ってまだ91年とか2年とか、ちょうど「センチメンタルな旅・冬の旅」とか、「冬へ」とか、「東京物語」とか、当時の写真集は全部言えるけど、「平成元年」とか「写狂人日記」とか。それで、プリントするためのお遊びの日記でやってたのが、こんな人もいるのかと衝撃だった。そこからすごい荒木さんのことが気になってしょうがなくて。で、当然荒木さんを見るってことはエロのこともあるし。あ、エロもやってるみたいな感じだし。だから、全部がそこから。

[黒田]

それで世界が広がったんですね

[笠井]

広がったっていうか、それはもう衝撃だよね。

[黒田]

しかも、何気なしに自分がやっていたものと遠からずというか、っていうところもあったんですかね。

[笠井]

でも当時、自分がやってたことを荒木さんがやってるっていうのは、最初は「あれ、同じことやってる」って思ったかもしれないけど、すぐにその考えは改まった。

[黒田]

運命的なものがありますね。

[笠井]

そうなんだよね、今思えばね。

[黒田]

人の参考にはまったくならない。(笑)

[笠井]

ならない。実は何もならない。(笑)

様々な写真家達との出会い

[黒田]

でも荒木さんもそうですけど、日常がやっぱり写真とすごい密接してるように感じます。それって極端な話、写真家として意識している中で行き着くところだと思うんですけど。もっとライトな層っていうのがいるじゃないですか。ライトな層で、ライトに楽しんでる人もいて、今それがすごい増えていると思うんですけど。

そういう時期っていうのは、荒木さん出会う前とか、あったんですかね?

[笠井]

それは、どうなんだろうね。

でも当時は、程なくして写真にはのめり込んじゃったんだよね。
たぶん知らないと思うけど、当時はワークショップ「コルプス」っていうね、十何年続いた写真のワークショップがあって。
校長先生が細江英公(*)さん、先生は森山大道(*)さんから、いろんな人がいて。ちょっと話すと、若干ややこしいんだけど。

[黒田]

初めて聞く名前です。

[笠井]

ワークショップは一期につき三ヶ月くらいやったのかな。当時から写真やってる人に、コルプスやってましたかって言ったら、結構いるはず。
自分何期ですって人はわりといると思う。僕は五期のときに行ったんだけど、うちの父親が舞踏家だから、当時舞踏家の土方巽(*)さんと細江さんが色々一緒にやっていた縁もあって、うっすら繋がってたのね。それで通っていた。

[黒田]

それもまた運命的な話ですね(笑)

[笠井]

行ったらもう、中はあの頃のコアなメンツで、そこではじめて大道さんとも知り合ったし。

[黒田]

大学卒業した後ですか?

[笠井]

大学に行ってる間。そこにはやっぱり、最初の黒田君のポートレート専科の話じゃないけど、写真に熱い人たちがすげー集まってるから、そこに入ったら負けれねーみたいな感じじゃん。

[黒田]

あ、なるほど。その気持ちはすごくわかります。

[笠井]

でしょ?僕ももちろん、写真いいなっていうところはすでに感じてたと思うし、だからそういう環境に行けて、すごい嬉しいなっていうのもあっただろうし。

[黒田]

そこがターニングポイントなんですね。そうするとあんまりライトな時代はないですね(笑)

[笠井]

ないんだよね。今になって思えばだけど、例えば長島有里枝(*)ちゃんとか、佐内正史君(*)とか、あの辺ともデビューする前から交流があったの、実は。

それもたまたまなんだけど、たぶん90年代半ばくらい、あの辺から結構写真ブームになった時代があって。HIROMIX(*)とか長島有里枝ちゃんが写真ブームを確かなものにしたんだよね。

[黒田]

長島さんの家族写真の頃ですか?

[笠井]

そうそう、家族のヌードをやったやつで。

昔、アーバンアート展っていう公募展があって、写真とかジャンル問わずのアート展なんだけど、僕は美大だったから、当時当然周りでも、みんな出す出すって言ってて。デザイン画でもいいし、とにかくなんでもいいわけ。そして一点は大賞に選ばれるという展示で。
とにかく周りがそれでざわついていて、僕は出さなかったけど賞を取るのは誰だっていうのは周りでもみんなすごく気になってたわけ。
そしたら、それが長島有里枝の写真だったのよ。写真が大賞になるとは誰も思ってなくて。

[黒田]

アート展ですもんね。

[笠井]

アート展だから。そこで写真がポンと出てきたのはすごく衝撃的で。
それもやっぱ、「写真なんだ」みたいな衝撃。
そこでまた自分の中の、ざわめきみたいな時代があって。その間にHIROMIX(*)とか、そういうのが出てきて、ある種それがブームになってって。

[黒田]

蜷川さん(*)とかも、それぐらいですか?

[笠井]

そう。実花ちゃんも、とにかくその頃って何故か横のつながりすごいあったんだよね。たぶん今とちょっと違うと思うんだけど、たとえば佐内くんとか、実花ちゃんも出会ってたし、HIROMIXも会ってたし、あと有里枝ちゃんとも会ってたし。

なんかみんな、独立した存在だったのよ。みんな誰々についてたわけでもないし、誰が師匠とかでもないし。みんな各々なんかやってたから、会うと「え、どういう感じなの」みたいな。SNSもなかったから。

[黒田]

でもなんか、交流あるんですね。すごく素敵な関係に思えますそれ。

[笠井]

そういうわけで、時代自体が写真ブームみたいなところがあったから、ライトな時代っていうのはないかもしれないね。

撮り続ける面白さ、厳しさ。

写真集「となりの川上さん」より
[黒田]

ライトにやってる人たちの思考のひとつとして、世の中にいっぱい写真が出てるじゃないですか。

我々が一般的に見るのって、写真集とか雑誌とか広告とかだと思うんですけど、今から写真はじめてもそこには行けないから本気でやらないっていう人たちも中にはいると思っていて。そうじゃなくても、別に好きなもの撮ってたら楽しいじゃんって、自分なんかは思うんですね。そういうところをもうちょっと伝えたいなと思っていて。そのあたり、写真の面白さとか、魅力みたいな部分は何か。

[笠井]

僕は普通の常識ではないかもしれないし、あんまりそれが伝わるかどうかわかんないんだけど。
写真家をやる上では、あんまりプロとかアマチュアとかって存在しないと僕は思っていて。どっからがプロで、どっからがアマチュアでっていうのはなくて。結構、アマチュアカメラマンっていうのがあるじゃない。層っていうか、それはもしかしたら、自分でも「アマチュアです」って言っちゃってるかもしれないし、誰かに言われてアマチュアってなってるかもしれない。

それは写真雑誌に言われてそう言ってるのかもしれないけど、実はそれあんまり意味がないというか、むしろそれを言っちゃうことでものすごいカテゴライズされちゃってる部分があって。

そこに安住してて、それでいいんだったらそれでいいんだけど、なにも無理やり「自分はアマチュアカメラマンです」って言う必要もないし。

[黒田]

いちいちラベル貼る必要ないですよね。

[笠井]

だし、決まったフォーマットの中にいてそれを主張する必要もないし。いてもいいんだよ。いてもいいんだけど、僕からすると、あんまりそこは意味がないと思っているし。

よく「どうやったらプロになれますか」とか、そういう質問があったりするわけじゃない。
でもプロになるっていうのは、まぁお金もらえばプロなのかもしれないけど、でもお金もらえててもプロじゃない人たくさんいるし。
だからそういうジャンル分けとか、プロとか、あんまり意味ないなと思っていて。

逆に僕も、プロだっていう意識はあんまりない。
どっちかっていうとプロっていうと、スポーツ選手とか、あるかもしれない。
スポンサーがついてとかさ、そういうのはプロって言うかもしれないけど。役者とかもそうじゃん。プロの役者とアマチュアの役者の線引きって、あんまりないし。

[黒田]

役者!それ良い例ですね、確かに。

[笠井]

これは僕の意見で、みんなそう思う必要はないんだけど。

よく言うのは、写真家になりたいんだったら、「自分は写真家です」って名乗ればいいじゃんっていう。それ以上でもそれ以下でもないっていうか。

[黒田]

言葉に責任を持っていくということですか?

[笠井]

いや、責任すら持たなくていいと思うよ、どっちかっていうと。だって責任なんてないもん、どこにも。
ただ結局、写真家ですって言うってことは、言い続けなきゃいけないわけじゃん。
その言い続けられるかどうかっていうのが一番難しいことであって。

撮ってて「写真家です」って言うのは、すごく簡単なことなのよ。だけどそれをずっと継続してやってられるかっていうのが一番あって。
だから別に責任なんか取らなくていいし、でもそのうち、何もやってなくても写真家ですって、あんた言えるのかって話だし。

[黒田]

そうですね、言い続けられるかっていう。自問自答したときもそうですし。

[笠井]

ただね、言うのはすごい簡単なのよ、実は。簡単だし、「どうやったら写真家になれますか」って言うと、自分で言えばそれでそうなんだよっていうしか言いようがないし。

だってこれは、写真のすごい特質だと思うんだけど、たとえば何もギターを触ったことない人が、いきなりギター弾けないじゃん。
でも写真って、何もしたことなくても写真撮れるじゃん。でもそれ撮ったら、写真家ですって言えちゃうんだよ。

それ間違ってないじゃん、だって。
はじめて撮った、お前まだ写真家じゃねーよって誰か言うかもしれないけど。
じゃあ何をもって写真家なんだよって反論したら、その人なんて言うのって話になっちゃうじゃん。

[黒田]

何も言えないですね。結局、言い続けられるのかっていう。

[笠井]

そもそもライトな層ってさっき言ったけど、写真ってそもそも、ライトなことなのよ。ただそれを言い続けたりとか、自覚を持ってやれるか、ってこと。

[黒田]

まさにビンゴな回答をありがとうございます。

でも確かにそうですね。
写真ってもともとライトなものっていうのが、一番しっくり来る感じがしますね。

[笠井]

本当、ジョウロだと思ってるの、写真って。写真の世界がジョウロというか。間口すっごいあるわけ。こっからでも入れるし、こっからでも入れるし・・・でも深くなればなるほど、どんどん狭くなってくじゃん。

本当、ジョウロみたいなものだと思ってるし、この深い部分って、底なしに深いからね。
僕だって別にそこは全然見えてないわけだし。
だって荒木さんに「年取ってからが写真家だ」って言われちゃったら、「え、そこってどんだけ深いのよ」って話になっちゃうじゃん(笑)

[黒田]

間違いないですね(笑) 何回人生やり直したらいいんだろうっていう。

[笠井]

だけど入り口はもうね、いくらでも。

[黒田]

そこが面白いところだなって思いますし。

[笠井]

難しいとこでもあるし、勘違いしやすいとこでもある。
撮れたら、写真家。
別に写真家ですって言ったからって、その人をみんなが写真家だって思うかは、また別の話だし。

[黒田]

あんまり自分のまわりとかにはいないんですけど。
それこそインターネットとかで見てると、ポジティブな人は、とことんポジティブになれるのが写真かなとは思いますね。
かけっことかだったら、1、2、3位って決まりますけど、結局自分が満足したら、それがある種の正解なんで。

そういう点も含めて、結構人間性というか、その人の自分をどれだけ客観的に見てるかとか、何を見ているのかとか、個人の性質が反映されてくる世界というか。特にその人のスタンス、スタイルをみていると。そのあたりも含めて、写真は面白いし誰でも楽しめるものだと思うんですよね。

常に撮り続けてきたからこそ成り立つ作品

写真集「となりの川上さん」より
[黒田]

面白すぎて大分長くなっているのでちょっと展示や写真集の話もお伺いしたいです。「東京の恋人」とか「となりの川上さん」とか、写真集の合間に、スナップみたいな、それこそコンビニに行くときに持ってってるのかな、みたいなカットとかがあるじゃないですか。

ああいうのって撮影、モデルとの撮影とは一切関係なく、持ち歩いてるスナップなんですかね?

[笠井]

今日も何枚か撮ってる。

[黒田]

じゃあ花の写真もそうですし、ああいうのを道端の中で、普段持ち歩いてる。

[笠井]

こういう言い方は僕も、本当はどうかわからないんだけど。
わかりやすく説明するために言えば、たとえば「東京の恋人」っていう写真集があって、あれは一応2011年から今年までの6年間を撮ってるんだけど。言っちゃえば、その6年間を100%としたら、「東京の恋人」はたぶん、撮った写真の0.5%くらいなの。

残りの99.5%っていうのは、要するにああいう風景だったり、スナップだったりするわけ。
だから、こんだけ撮ってますっていうのを言いたいわけでもなんでもなくて、あれが成立するには、残りの99.5%をやってあれができてるんだよってこと。
その断片はちょっと合間に入ってるっていうか、っていうことだよね。

[黒田]

そういう意図もあって、入れてもいるんですか?

[笠井]

意図っていうか。

[黒田]

以前に写真集のセレクトは感覚的にやってる部分もあるという話もありましたけど。

[笠井]

そうね。ものすごい意図とか、ものすごく観念的に入れてるわけではないんだけど。

[黒田]

そこは強い意志ではないけども、っていう。そういう意味も含めて感覚ってことなんですね。

[笠井]

0.5%っていうのは、もしかしたら極端かもしれない。
1%で、残り99%かもしれない。そこの比率はちょっとわかんないけど、でもそれが、99%とか99.5%とか98%かもしれないけど、それがないと、やっぱりあれって成立しないものなんだよね。

「東京の恋人」で撮ってるようなことだけをやって、日々は生きていけないっていうか。あれだけを見るから、みんなどうやって撮ってるんだろうって思うわけじゃん。なんでこんだけ、あんな女の子ばっか撮ってるんだってなるけど。

種明かしじゃないけど、そうじゃなくて、女の子しか撮ってないんじゃなくて、すごい撮った中の、女の子しか選んでないから、ああいうことになってるんだってことなの。

本当はね。

[黒田]

なんというか、笠井さんの人生をテーマに沿ってフィルタリングしたような本なんですね。その考えで見直すとすごくおもしろそうです。プロジェクトありきではないというか。スナップというか、女の子もありつつ、一緒にこう、入れてる感じが。

展示もそういった視点で拝見すると見方も変わってきそうで楽しみですね。

しかしだいぶ濃い話でした。本日は長々とありがとうございました。

[笠井]

そうだった?(笑)
こちらこそありがとうございました。

プロフィール

笠井爾示

笠井爾示(かさい ちかし)
写真家。1970年生まれ。1995年に初の個展『Tokyo Dance』を開催。写真家ナン・ゴールディンに見出され、1997年に同名の写真集を新潮社より出版。以降、音楽、ファッション、カルチャー誌など、エディトリアルの分野で活躍。 CDジャケットやグラビア写真集も数多く手がける。これまで出版された作品集は『danse double』『波珠』『Karte』など。2017年は5月に『東京の恋人』、11月に『となりの川上さん』(共に玄光社より)が出版され、2017年12月には個展も開催。

発売写真集

Amazonよりご購入いただけます。

東京の恋人

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となりの川上さん

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展示情報

  • 12月9日〜21日 『東京の恋人』 渋谷ヒカリエ 8/CUBE 1, 2, 3
  • 12月15日〜24日 『Flowers (Flower Of Romance / Dead Flower)』 原宿Bookmarc

笠井爾示写真展「東京の恋人」 渋谷ヒカリエ 8/CUTE 1,2,3

写真家・笠井爾示は、2017年5月に上梓した写真集『東京の恋人』(玄光社刊)と同名の写真展を、渋谷ヒカリエ「8/CUBE」(東京・渋谷区)にて開催します。

『東京の恋人』は、笠井が2011年以降に撮影した女性のポートレートを中心に、まとめた写真集です。そこには、被写体となった60名以上の女性とのプライベートな関係性を思わせる描写や、性を露わにしたエロスが、「日々の記憶」として写されています。
本展では、写真集で掲載したカットに加え、新たに200点以上をセレクト。笠井自身がプリントした写真(B5サイズ)と、長辺2mに及ぶ特大プリント3点を含む、約500点を展示します。

会 期 2017年12月9 日(土)- 2017年12月21日(木)※会期中無休
時 間 11:00 – 20:00
場 所 渋谷ヒカリエ 8/CUBE 1, 2, 3
料 金 無料
主 催 ARTイワタ
後 援 玄光社
ヒカリエ公式情報

笠井爾示写真展「東京の恋人」

笠井爾示写真展「Flowers」

12/15〜12/24
@BOOKMARC (マーク・ジェイコブス)

※花の写真、数々あれど、上手い下手、古い新しいを超えた
笠井爾示、魂の瞬間と閃きの生と死のロマン。

同時発売
  1. ①Flowers of Romance (A4、28P、プリント付) ¥10,000 税別 限定130部
  2. ②Dead Flowers (A4、28P、プリント付) ¥10,000 税別 限定130部
  3. ③オリジナルプリント

クレジット

制作​ 出張写真撮影・デザイン制作 ヒーコ http://xico.photo/
カバー写真​ 黒田明臣
出演​ 笠井爾示
Biz Life Style Magazine https://www.biz-s.jp/tokyo-kanagawa/topics/topics_cat/artsculture/

参考

登場順

* 魚住誠一氏(ポートレート専科を主宰するプロフォトグラファー。)
* 荒木経惟氏 国際的に活躍する日本を代表する写真家
* 長島有里枝氏 第26回 木村伊兵衛写真賞受賞
* 森山大道氏 国際的に活躍する日本を代表する写真家
* HIROMIX氏 第26回 木村伊兵衛写真賞受賞
* 佐内正史氏 第28回 木村伊兵衛写真賞受賞
* 土方巽氏 日本の舞踏家・演出家振付家・俳優。
* 蜷川実花氏 第26回 木村伊兵衛写真賞受賞

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