動体と静物のコントラストを明確に定義することによる異空間表現

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皆さん、こんにちは。タカウエ(@Akira_TAKAUE)です。
前回(第3回)からだいぶ時間が空いてしまいましたので、一旦ここでおさらいを。

第1回では「都市風景・建築・土木構造写真における昼間長時間露光撮影」と題して、都市風景そのものが存在する意味や、そもそも昼間長時間露光によって何が表現できるか、に関して御話しさせていただきました。

そして第2回では「コンセプトが魅せる構造物の長時間露光撮影」と題して、第1回からさらに深く長時間露光撮影の撮影意図に踏み込みました。

さらに第3回ではいよいよ実践編として「時空の流れが封入されることによる都市風景のダイナミックな表現」と題して、星の数ほどあるコンセプト設定の一つをご紹介差し上げました。

そこで今回第4回では、第3回の続編としまして新たなコンセプト設定である「動体と静物のコントラストを明確に定義することによる異空間表現」についてご紹介差し上げたいと思います。

動体と静物のコントラストを明確に定義することによる異空間表現

前回のテーマであった都市風景のダイナミックな表現とは、動体を動体として表現するために、動体を「時間軸という縦のレイヤー」として効果的に写真の中に封印する努力をし、構図設定以外は誰が撮っても同じであろうはずの人工都市風景写真が、瞬時にして独自性豊かなものになるとともに、スタティックな場面がダイナミックな場面へ、いわゆる現地で感じた感覚と時間軸を包含した写真へと変貌させることをねらいとしていました。

ここで、今度は、一歩先に進み、その技法を利用してまさに長時間露光撮影の醍醐味である、静物と動体の融合から派生する表現をおこなうことによる異空間的描写に挑戦してみましょう。

撮影場所・背景とコンセプトのねらい

Minatomirai Profile, Minatomirai, Yokohama, Japan
Nikon D810 / マニュアル露出(F8、150秒) / ISO100 / 4枚パノラマステッチ / 10段減光(ND1000)

ご存知、横浜・みなとみらい地区です。この写真は縦構図で各々150秒の長時間露光を行い、パノラマ雲台を用いて4枚撮影の後、ステッチングを行ったパノラマ写真で、横18,000pxにも及びます。

ご紹介差し上げているコンセプトの如く、強い風により勢い良く流れる雲と、微動だにしないみなとみらいの摩天楼群および静寂感が漂う水面からなる動と静のコントラストを、ハイコントラストのモノクロで表現することにより異空間的な描写を主要な「ねらい」としています。

撮影を行う上での留意点

当然のことながら無理にパノラマ撮影を行う必要はありません(長時間露光パノラマ撮影についてはまたいつかどこかの機会にて)。

ここで留意したい点は、動体と静物を明確に定義してその挙動の描写が効果的に異空間的な表現に寄与できるか否かなのでしょう。

①動体を雲とし、勢い良く流れる雲が文字通り強い風を受けて荒れ狂う姿として描写できる露光時間を決定する。
②通行者が頻繁に画角に入る場合、それが消える露光時間を決定する。

しかしながら①と②を優先的に決定してしまうと、静物として定義したい「水面」がおろそかになってしまいます。淡水池と異なり海の場合、波形が高く不規則であるため短すぎる露光だと平坦化されません。いわゆる静寂感をつかみとることが出来ません。

従って

③水面の波形が平坦化され静寂感を感じ取れる露光時間を最低値とする

ということもこのコンセプトを成功させる要素の一つです。

他方、この最低値が長すぎると、①において動体が抽象化されてしまうため、今度は別のコンセプトになってしまいます。

そこで、今回は数度のテスト撮影を行い、F値一定の下、シャッター速度は厳格に150秒とし、上記の条件を満足する条件を設定しました(これをパノラマ4枚で行うことは、帰宅後のステッチングを含めて正直かなり骨が折れたのですが)。

遠中景にそびえる、マッシブなみなとみらいの摩天楼と凛と構えるアニヴェルセルみなとみらい、そして鏡のような静寂感ただよう水面を静物とし、その上空を勢いよく荒れ狂う流れる雲が加わった描写をハイコントラストなモノクロで製作することにより異空間的写実を表現できたかもしれません。

モノクロかカラーか?

これは第1回でも御話させていただいたように、本当に永遠のテーマです。繰り返しになりますが、例えば自然風景に溶け込む都市風景を表現する場合、自然の豊かな色彩やデリケートな色彩の変化といったものが、カラー撮影で可能です。

色彩に特徴があったり、テクスチャーが色彩光に敏感に反応しているような構造物もカラー撮影を選択してもよいでしょう。従って、自然風景を長時間露光で撮影した場合、その静寂感をカラーで表現することは作品の成功への近道のときもあろうかと考えます。

元来、人間の目は色彩に大きな影響を受けて景色を見ています。このとき、もし色がなく、コントラストのみで表現した場合、カラーでは見えなかった光の調和を表現することができるでしょう。

上記が比較用のRawデータ(左)と最終モノクロバージョン(右)です。

モノクロの方は要素毎にトーナルコントラストと反射光のグラデーションを強調しているため、単純に左右の比較は難しいのですが、右側のカラーの場合、摩天楼の白・グレー、植物の緑、アニヴェルセルのクリーム色、水面の白から青(グレー)、歩道床版の木目、など色彩が多岐に渡り、人間の目は構造物のコントラストよりも色彩に目が行ってしまい、空間的表現というよりも場所そのものの描写となってしまい、今回のコンセプトにはどうしても合致しないことをご理解いただけるでしょう。

さらに、長時間露光では次回以降お話させていただきますが、自然条件の微細な濃淡までもが平坦化、抽象化されてしまうため、どうしても色彩がフラットになりがちで、カラー写真ではコミックな描写になりがちなことも留意しておくべきかもしれません。従いまして、本コンセプトでは迷うことなくモノクロを選択しました。

このように、モノクロ写真は、写真としての構図、入光と構造物の外壁に反射したトーナルコントラスト、そしてその主題を強調する背景をテーマ化して先鋭化できるとともに、ファインアートとして非現実性までもが主題化してくることとなります。

いつしか、もし需要がありましたら(笑)、パノラマ写真作成やモノクロ写真のレタッチ等についてもここヒーコもしくはワークショップにて御話させていただければと思います。

おさらい

今回ご紹介差し上げたコンセプト、「都市風景のダイナミックな表現」から派生した「動体と静物のコントラストを明確に定義することによる異空間表現撮影手法」につきまして、現場でのプロシージャーをおさらいいたします。皆様のご参考になれば幸甚です。

  1. パノラマ基本構図の設定
  2. 露出・色調系の調整レイヤーで調整を行う
  3. パノラマ分割数の設定(本作例の場合24mm縦構図4枚)
  4. パノラマ雲台シフト角とパノラマ基本構図の整合確認
  5. 動体物の動きを確認し、空および水のテスト撮影を行い、当該コンセプトを満足する露光時間を決定
  6. 4.に合わせたカメラおよびNDフィルターを装着
  7. 最終テスト撮影(1枚)
  8. パノラマ撮影開始
  9. 撮影終了
  10. 自宅にてパノラマステッチング

次回に向けて


今回は、昼間長時間露光撮影を行ううえで、動体と静物の定義を明確化し、そのコントラストを明確に表現することによるコンセプトをお話させていただきました。これは前回の「都市風景のダイナミックな表現」から一歩進んだ表現となります。次回は、このダイナミックや動的や静物の細かい定義や撮影方法から一旦閑話休題としまして、「自然現象が抽象化する」ことによるコンセプト設定についてお話させていただきます。

それではまたお会いします。

アキラ・タカウエ

バックナンバー

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