写真と生きる | 松野正也×平井義浩×黒田明臣 対談「ビジュアルのアマナをかたち造るもの」 – 後編 –

日本最大級のストックフォト販売サービスを運営する株式会社アマナイメージズのクリエイティブディレクター / 取締役である松野正也氏との対談後半は、同社ストックフォトサービス amanaimages PLUS ユニット ゼネラルマネージャー平井義浩氏を加え、ヒーコ黒田明臣氏の三者による対談をお送りします。

ストックフォトフォトグラファーからクリエイション、そしてアマナの理念にまで切り込みます。

前編はこちら

松野正也×黒田明臣 対談「ビジュアルは伝える手段」 – 前編 –

松野正也×平井義浩×黒田明臣 対談「ビジュアルのアマナをかたち造るもの」 – 後編 –

フォトグラファーのクリエイティビティを高めたい

[黒田]

実は、周りに写真を撮るのが好きで、撮っている人という人はたくさんいるんですけど、ストックをメインでやってますっていう人はそんなにいないんです。

ヒーコ寄稿者にストックフォトでRM作家としてやられているAce Akiyama(@lapho_jp)さんという方がいるんですけど、これだけフォトグラファーがいる中で一人とかそういう割合です。色んな可能性があると思うんですけどね。

数ある写真系ウェブサービスの中からプラットフォームとして利用して自分を知ってもらうための媒体と考えると、いま真っ先に思い浮かぶ範囲だとやはりインスタグラムなどのSNSになってくると思います。他にはカメラ雑誌さんのコンテストや海外の写真SNSなど。その選択肢にもう少しストックフォトが入ってくると、露出やマネタイズの可能性の量を考えて魅力的な気がしますね。

[松野]

ストックフォトサービスはいくつもあるんですが、我々は今までのアサインメントの受託制作事業で培ってきた経験や技術力といった強みを持っているので、それら様々な情報を提供させていただきながら、フォトグラファーのクリエイティビティ高めていきたいと思っています。


https://portfolio-ai.com/


http://magazine.plus.amanaimages.com/
クリエイター向けWEBマガジン「PORTFOLIO」と「amanaimages PLUS MAGAZINE」

[黒田]

そこはヒーコも規模は全然小さいんですけど、思想的には近いものがあると思っています。

やはり情報は活性化しないと意味が無いと思っているので。話は逸れてしまいますけど、日本は日本語の壁が大きいと感じていますが、内々で独自文化を築いていく性質があるなと思っています。携帯電話のガラパゴス化じゃないですけど。そうすると活発にならない、議論も動きも。漠然とした言い方ですけど、そういう風に考えていて、では海外はどうなんだろう?と目を向けてみると、国の一つ一つがものすごく突出してるわけじゃないんですけど、英語という共通言語があるおかげで、情報はものすごく活発なんですよね。

日本 VS 海外という構図で見たときに、アマチュアの情報力でいったら日本は負けているように感じてしまうんですけど、個体戦闘能力で言ったら日本のフォトグラファーって全世界横並びでみたときにめちゃくちゃ高いと思うんですよ。

VSアメリカとかでやっても全然高いと思いますし、ただ、日本のアマチュアフォトグラファーが今困ってるのは、構図が日本語VS英語だからなんですよね。この点に対する歯がゆさと問題意識からヒーコははじまっています。日本がもうちょっと海外の情報であったりとか、活力をインポートして、日本自体も情報を活性化して活発な意見交換であったりとか、情報の公開であったりとか、写真のアウトプットが行われたら、世界レベルでみても圧倒的な国になれると思っているので、ヒーコをはじめたんですけど、それを何十年前からやられてたってことですよね。

[松野]

やろうとしてきました。なかなか認知が追い付いていないかもしれないですけど、粛々とやってきたところはありますね。

[黒田]

先駆者がいたなと、思いました。こういう問題意識っていうのは、持ってる人は持ってるんだろうなって思ってたんですけど、アマナさんがまさにでした。

[松野]

もちろんクリエイティブなんで、譲れない、人に教えたくない部分は絶対あるんだと思います。そこは大切にすべきだと思うんですよね。なんですけど、それ以外の部分はどんどんオープンにしていって、コミュニケーションを活性化して情報交換していくともっと広がると思っています。

[黒田]

はい。そうですね。そうするといまの情勢もどんどん変わっていく。いま社会的にもすごく変革の中にいると思ってるのですが、だからこそチャンスというか、ただ写真やってただけなのにアマナさんみたいにプラットフォームやキャリアパスを用意してくれているサービスがあって、それを利用すれば自分がやりたいことを実現するための方法が色々あるじゃないですか。

昔ってそれこそ地道な活動しかなかったと思うんですけど、使えるものは全部使って、自分のポジションを皆取っていかないといけないなっていうのは思いますね。これは是非使ってほしいですね。

[平井]

自分としては、今までのアマナのやり方プラス、先ほど松野が言ったようにどんどんオープンに情報公開して、例えば今回のようなヒーコさんとの取り組みのように、組める所とは積極的に組んでいければと考えています。

[黒田]

自分がそういうビジョン持ち始めたときってこの1,2年の話なので、もっと前からこの考えをされてるのって、アマナさんであったりとか、他でも個人レベルでも、企業レベルでもあると思うんですけど、多分それをする必要が、そこに120%エネルギーを注ぐ必要がそこまで無かったというか。情報を持っている側は、もちろんそのノウハウで生計を立てられてるので、課題をアウトプットに対して感じるのはプレイヤーの末端側だと思うんですよね。
今どうにもなってない人たちと言うか。しかしそういう課題がだんだんと解決可能になってきている。末端って言ったら失礼ですけど、どうにもなってないフォトグラファーの人たちが問題を解決したいと思って実際に動きとして出てきたというか。

[平井]

方向性をまだ定められてない方々ということですよね。

[黒田]

ええ、自分が末端の人間なんで(笑)

[平井]

それはないです(笑)

[黒田]

多少形に出して来れましたけど、全然写真と関係ないところにいて、ゼロの状態から何となくやりたいことを個人レベルでやってきて、今こうなってきているので、それを多分もっとパワフルな人がやったら、結構フォトグラファー業界全体が変わるんじゃないかなっていうのはすごい思ってますね。

[平井]

フォトグラファー個人個人の考え方を変える必要もあるかなって思っていて、マインドチェンジをどうやるか。ストックフォトがきっかけでも何でも良いと思うのですが、アマナグループとしてそこのお手伝いが出来ると良いなって考えています。

写真とお金

[平井]

あと不思議なのは、写真は無料みたいなイメージが世の中的にはまだある印象。その為か、自分が撮った写真でお金をもらうということが悪と言うか、罪悪感を持っている人が多い気がします。黒田さんの周りにもそう思っている方いませんか?

[黒田]

いますいます。続けていくと、負い目を感じても仕事である以上、どこかのタイミングでプロ意識というか、自分の作品には価値があるんだというのを堂々としてしないといけない。迷っててもそういうスタンスでいかないといけないなっていう気づきを得る時期は必ず来ると思います。

でも、アマチュアで写真をやっていて、本業は全然関係ない八百屋やってますみたいな人がすごく写真上手くてそれを結婚式とかで頼まれて撮ってみたいになったときに、その結婚式でお金を貰うってことに罪悪感を持ってしまう人もいるんですよね。

写真を買ってもらってお金を貰ってしまうことによって、自分の写真にそんな貰って良いんだろうかみたいな懐疑的になる人もいます。作家としてただオレは好きで撮ってるんだみたいなアーティスト気質というか、昔の職人気質みたいな人とかはお金のためにやってるんじゃないっていうスタンスを貫き通したいがために、お金を貰いたくないっていう人もいますね。

これ面白いのがBtoCだとお金貰わないとやらないっていう人もまた多いんですよ。CtoCだとお金貰うのはってなる人もいますし、結構何パターンかある。

[平井]

そういう雰囲気はなんとなく感じています。

[黒田]

もちろんケースバイケースで正解も無いでしょうし、どちらかというと相互の納得感という話だと思うんで、あんまり汎用化はできないと思うんですけど、ネットの素材は無料みたいな意識に関してはやっぱり変えていくべきだなとは思いますね。

あとは技術とかネットの写真情報だけでなく、さっきの勉強会の話もそうですけど、それが我々のミッションを抱えてる部分でもあるんですけど、情報を出すことによって、それを無料で書くけども、これには非常に価値があるっていうところも同時に示していかなくてはいけないと思っています。それを示すために、セミナーでは決して安くない値段を取って、この情報はすごい価値があるんだよと言うブランディングは保っていかないといけない矛盾を内包してるんです。

アマナさんの取り組みでもそうでしょうし、そういう矛盾の内在はあるのかなと思うんですけど、こういう矛盾とか葛藤とか、意見であったりとか、批判も含めて活性化につながってくと思うんで、そこで議論はあった方がいいと思っています。SNSでそういう話題になってもどんな感じでもそういう意識をみんなが、自分はどっちか考えるきっかけができれば最終的には良いのかなと思ってますけどね。

[松野]

お金が発生するこということは、必ずしも仕事ではないかもしれないですけど、何かしたことへの対価ということですよね。そう考えると、ストックフォトというのは、何らかの制作物やコミュニケーションに写真が必要な人がいて、そのためにフォトグラファーが写真を提供してその対価をもらうことで成り立っているんです。


amanaimages PLUSクリエイターエントリーページ
https://plus.amanaimages.com/creator-welcome-page

[黒田]

そして力の入れ具合を自分に委ねられてる、裁量があるって考えると非常に良いですよね。出す分には好き放題撮って、全然売れもしない戦略もかけてないものであっても放り込めるは放り込めるじゃないですか。機能としては。

好きな事を仕事にする新しい形

[黒田]

ただそれで売れるために取り組んで、1日でこういうスケジュールでこういうカットを撮っていこうっていって1日何パターンかとった写真を売ってくのって、後者はある種、自分がクライアントにもなり、自分で撮影をして全工程自分でやっている仕事みたいなもんだと思うんですよね、そしたらお金を貰うっていうところも逆に貰わないと本人もただ働きしたような気持ちになっちゃうでしょうし。

[松野]

次につながらないと思うんですよね。

[黒田]

そうですよね。そこの裁量とか力の入れ具合とか温度感を本人が決められるってなると、そういうスキームでお金を稼ぐ手段は、これまであんまりなかったと思うんで、発想が浸透さえすれば良いですね。あとは成果。

今までは大体時間を拘束されて、その時間内で何かをすることで、対価としてお金を貰うというのが、基本構図だったと思うんですけど、そもそもお金貰わないで趣味でやっていたことにちょっと仕事のエッセンスを加えることでマネタイズできるという発想。

簡単に言うと好きなことを仕事にするっていう誰もが夢見る流れの一つの答えと言うか、新しい形なのかなっていうのは今お話していて、思いました。

[松野]

そうだと思うんですよね。アサインメント撮影っていうのは、通常はアートディレクター(AD)やデザイナーがいて。ADがクリエイティブの方針や内容を決め、フォトグラファーにその撮影を依頼することが比較的多いと思うんですよね。ストックフォトはフォトグラファー自身がアートディレクションをしないといけないので、本当に自分のクリエイティビティを試す形になりますね。

[黒田]

ですね。お話している中で自分の中でも整理されてきました。

写真とアート

[黒田]

最後にお伺いしたいのが、写真とアートについて。アマナさんはアートの分野にも足を踏み入れていらっしゃるなっていう印象があります。見方にもよると思うんですけど、簡単に語れない組み合わせなのかなって個人的には思っていて、アマナさん的なアートと、アート写真というのは何なんだろうっていうのはお伺いしたいです。

[松野]

アートと商業ってことですか。

[黒田]

そうですね。例えば何ですけど、ものすごいコンテンポラリな方に話を向けると、写真販売専門のギャラリーは基本的にあんまり無いと思っています。無くはないんですけど、アートギャラリーとして写真置いてますというのはあまり無い印象です。

昨年アートフェアという東京国際フォーラムで開催されたイベントに行ったんですけど、様々なアートギャラリーがそこに所属する作家さんの作品と共に出展されていて、数百あるブースのうち写真の展示って2つくらいしかありませんでした。絵とか彫刻はたくさんあるんですけど。大体作品一つが何百万とか何十万とかで売れてるんですけど、写真で出してる人、10人もいなくて。驚きました。

まあここまでいくと究極なのであれですけど、絵的な意味でアートという見方もあると思いますし、クリエイティビティを写真に投影するとか、表現として写真を撮ることでアート写真とも言えるかなと思います。アートの定義はものすごく広いので。
難しいなって思ってるんですけど、その中でアマナさんの考えるアート写真であったりアートっていうのは何なんだろうっていうのをお伺いしたくって。

[松野]

僕はアート写真の専門ではないので、広告写真、商業写真のことしか話せないんですけど、さっきも言ったように、写真っていうのは情報を伝える手段でもあるんですけど、そこに感性を加えるっていうことにアマナはこだわってきました。

例えば花の写真なら、単に花が写ってるっていう情報だけじゃなくて、そこに「さわやか」とか「さびしそう」とか、そういう感性を加えることでより雄弁になるっていう。昔から「伝えるから伝わる」という話をよくしているんですけど、ただ単純に「伝える」んじゃなくてしっかり「伝わる」ことで、相手を「行動に移す」ことができると。

それがアマナのコーポレートミッションの“ビジュアルコミュニケーションを通して世界を豊かにする”という部分につながっていきます。アートフォトでもストックフォトでもビジュアルを活用したコミュニケーションを展開していくことで、人々のライフスタイルを豊かにできるかというところが、我々のミッションなんです。

[黒田]

想いを乗せるっていうのがまさにですよね。個人的にはそのくらい広い意味でアートっていう言葉が適切なのかわかんないですけど、区別したいですよね。記録的な情報としての写真ではなく、それが今無意識に趣味でフォトグラファーとして写真やってる人たちはやってることだとも思います。

レタッチ一つ取っても、いまのフォトグラファーは、自分なりの表現とか気持ちを乗せるとか、言語化できてはいないけど、ほぼ確実にやっている。それやってない人って逆にドキュメンタリーというか、新聞記者さん的な感じだと思うんですよ。

そういうところに意識を向けて、広告なんかは基本的には伝えるより伝わるじゃないですけど、訴求したい内容っていうのがあるはずなんで、そこに感性を乗せられて、かつフォトグラファーなりADの想いを乗せて制作する工程を一人でできるのが今の新時代のフォトグラファーなのかなとも思います。

それを無意識にやってるんで、そういうところをストックフォトとかを利用したりとかアマナさんが展開しているメディアもそうですし、様々なイベントもそうですし、そういう相互作用でどんどんフォトグラファーのレベルが上がっていくと良いなと思いますね。

[松野]

やっていることとか考えていることはすごいシンプルなんですけど、それを色んな形でやっているっていう感じですかね。

[平井]

アマナの創業者は元々フォトグラファーだったっていうのもあるから、クリエイターの働き方や環境にこだわりをもって経営してるのを肌で感じますね。

[松野]

こだわりを持ち互いに切磋琢磨しろ、それこそアマナの社員だっていうところがあるので、そこは強いですかね。

[黒田]

まさにですね。コーヒー一つとってもこだわりの極地みたいな。

オフィスに併設されたアートフォトギャラリーカフェ。コーヒーマイスターが煎じた特別なコーヒーでお客様をもてなす
[黒田]

本当細かいところ含めて、オフィスもそうですし、思いますね。

ビジュアルへのこだわり

[松野]

そうなんです。昔からなんですけど、コーポレートコミュニケーション室という部署で、インナーコミュニケーションを担当していて、僕は最初そこにデザイナーとして入ったんです。で、グループ会社やサービスのロゴとかはもちろん、封筒だったり名刺だったり、備品にも、アマナらしいビジュアルを用いた表現にこだわっていました。

[平井]

細かいとこだと名刺の裏のデザインが色々あるんです。こうやって何枚か集めると一つの絵になったりするんです。

[黒田]

めっちゃ面白いですね!

[松野]

つながるというコンセプトなんですよね。

[黒田]

おお、なるほど。

[平井]

そういうのがあって、例えば何名かうちの社員と名刺交換していただくと。どこかでつながるっていう。

[黒田]

なるほど、裏面のデザインが違うなとは思ったんですけど、つながってるんですね。

[平井]

僕の名刺だけだと作れないですね。

[黒田]

何名か必要ですね(笑)

[松野]

この写真選びも、すごく時間かけてるんですよ。これ。

[黒田]

そんなにこだわるんですか?

[松野]

2〜3ヶ月かけて選びましたね。

[黒田]

えー!

[松野]

ええ、僕がやっているときはめちゃくちゃ時間かかりました。上司も厳しかったので、とにかく時間をかけて。

とことんビジュアルにこだわっていく、それがアマナグループなんです。だからこそ、amanaimages PLUSなど一般の方が参加できるサイトであっても他のストックフォトサイトとは違うと思うんですよね。そのこだわりに共感していただける方には是非ご参加いただいて、一緒にビジュアルを作っていきたいです。

[黒田]

とにかく素晴らしいと思います。また一つ、アマナさんの会社そのものが好きになりました(笑) 今回は、幅広くお話いただきありがとうございました。

プロフィール

松野正也

株式会社アマナイメージズ取締役/クリエイティブディレクター。1995年桑沢デザイン研究所卒業。デザインプロダクションで研鑽を積んだ後、アマナグループ入社。2016年より現職に就き、クリエイティブディレクターとしてコンテンツの調達とWEBデザインを統括する。

平井義浩

株式会社アマナイメージズ amanaimages PLUSユニット ゼネラルマネージャー。楽天株式会社でディレクター・プロデューサーを経験後、ベンチャー企業を経て2017年に株式会社アマナイメージズ入社。2018年3月より現職、amanaimages PLUSのプロデュースから開発全般を統括する。

クレジット

制作​ 出張写真撮影・デザイン制作 ヒーコ http://xico.photo/
カバー写真​ 黒田明臣
出演​ 松野正也 平井義浩
Biz Life Style Magazine https://www.biz-s.jp/tokyo-kanagawa/topics/topics_cat/artsculture/

amanaimages PLUS

amanaimages.com

株式会社 アマナ | amana inc.

Pocket
LINEで送る

0 replies on “写真と生きる | 松野正也×平井義浩×黒田明臣 対談「ビジュアルのアマナをかたち造るもの」 – 後編 –”