写真と生きる | 「アートは人を救うものであってほしい」浅間国際フォトフェスティバルに向けて。速水桃子×黒田明臣 対談

写真の夏がやってくる?2018年の夏に開催間近の浅間国際フォトフェスティバル、ヒラプロデューサーである株式会社アマナの速水桃子氏と、ヒーコ黒田明臣氏による対談をお送りします。

速水桃子×黒田明臣 対談「アートは人を救うものだと思っている」

アマナが自治体と共につくる「写真で町おこし」

[黒田]

毎月のようにこちらのオフィスに通っていますが、速水さんとははじめましてですね!

今日は、浅間国際フォトフェスティバルと、その展望についてお話をお伺いしたくやって参りました。今日はよろしくお願い致します。コンセプトは、アマナが自治体と共につくる「写真で町おこし」と伺っているのですが、その背景には色々な思いなどがあるのかな?と想像しています。まずはその概要を教えていただけけますか?

[速水]

はい、よろしくおねがいします!

2018年夏開催決定した「浅間国際フォトフェスティバル」、またの名をアマナ内では「御代田プロジェクト」と呼んでいるのですが、一体それは何なのかというところからお話しますね。

アマナは2019年に40周年を迎えます。そこで記念事業として、様々な新しい取り組みをスタートさせようとしている中のひとつが御代田プロジェクトです。このプロジェクトは、2017年くらいから自治体さんと動き始めていたのですが、今年、先ほど申し上げた「浅間国際フォトフェスティバル」という形で実現する事になりました。これは一回きりの施策ではなく、2019年の本格開催を目指し、さらに先も見据えたプロジェクトになります。

「浅間国際フォトフェスティバル」

[黒田]

2019年に本格開催という事は、今年の夏に開催されるのはプレということですか?

[速水]

そうですね。アマナとしては、「ビジュアルコミュニケーションで世界を豊かにする」というコーポレートミッションを元に、新しいフェスティバルとして今回取り組んでいます。

[黒田]

面白いですね〜。しかしこのプロジェクトルームを拝見する限り、プレとは思えない準備ですね。規模がすごそうです。

[速水]

いえいえ(笑)

今回浅間国際フォトフェスティバルのプレを今年開催しますが、そもそもの発端である「御代田プロジェクト」について先にお話をさせていただければと思います。

世界のフォトフェスティバル例

フランスのラ・ガシイ

[速水]

アマナは”Living with Photography”というのをうたっているわけですけれども、世界では既に様々な「写真のある暮らし」の事例があって、わたしたちはそこからいくつか学んできました。
ひとつは、フランスにあるラ・ガシイ(La Gacilly)という本当に小さな町です。この町では、屋外型の大型展示を特徴とするフォトフェスティバルが毎年開催されています。

とても自然が美しい町なのですが、その自然の中やヨーロッパの古い町並みの中に、写真が存在感を持って飾られているというフェスティバルです。
その町は、非常に辺鄙なところで、パリから高速鉄道で2時間。さらに車で1時間くらいの場所にあります。最後のアプローチ方法が車しかないんです。ですので、車で町まで向かうわけですが、町に入ると同時に大きな写真が目に入り、そこで周りの風景が一変します。あ、フォトフェスティバルをやっている町に来た、というのがすぐに分かる。
そのフェスティバルは毎年テーマが変わるのですが、2016年のテーマが「日本」と「海」だったんです。その時に、主催者の方から、日本がテーマなので、コンテンツで協力してくれないか、という打診がアマナにあり、そこからそのフェスティバルとアマナのお付き合いが始まりました。
わたしたちも、そのときに初めて、そのようなフォトフェスティバルがフランスの小さな町で開かれているのを知り、実際何人かが出向いたのです。そして行ってみたらやはり素晴らしかった。
フランスの、ブルターニュ地方の美しい自然の中に、かなりのインパクトのある大型写真が展示されていて、写真を楽しむという一つのあり方を、実際に見せられた気持ちでした。

[黒田]

へ〜!規模が大きいですね。屋外ということで、色々課題もあると思いますけど。

[速水]

今年で15回目になるフォトフェスティバルなのですが、15年という数字が何を表しているのかというと、写真が外に持ち出せるようになってから15年ということだと思います。

それこそ、耐光性の問題ですとか、大型のプリント技術ですとか、そういったところが現実的になってきて外に写真を持ち出した、というのが彼らのスタートだと思うんですね。何がすごいって、人口がたったの2000人くらいなんですよ。その町に40万人がフォトフェスのために訪れる。ちょっと聞くと、ほんとかな?と思うのですが、去年実際に行ってみて、この40万という数は本当だなと実感しました。

平日でも休日でも関係なく皆さん写真を見ながら歩いていらっしゃるんですね、地元の方だけではなくて見るからに旅行者の方々も。写真を見ながら語り合い、時間を過ごしている、という状況を目にしまして、人口2000人の小さな町に40万人が来るのも嘘ではないのだろうなというように思いました。

 

ここのフェスティバル自体の成り立ちも面白いのですが、主催者がこの町出身の企業グループの社長なんです。イブロシェ(Yves Rocher)というグループなんですが、様々な事業をやっている中の一つが、この町で取れたハーブなどを原料としてつくるオーガニック化粧品のブランドなんです。

そういった企業グループの社長が、フェスティバルをやることにどんな意味があるのか、というと、彼はいろいろな意味でこの町を守りたい、守る決心をしたのだと思います。守るというのがどういうことかというと、町の自然を守り、さらに雇用をつくり続けるということです。そして、その自然と人間の文化の共生を考えた結果、人間の文化の象徴である「写真」と、この美しい「自然」の調和というものを考え、このフェスティバルをつくり、育ててきたんだろうと思います。これが一つ目の例です。

[黒田]

面白いですね、文化と自然の調和というのは壮大なテーマですが、こうして拝見していると写真はそれを可能にする数少ないコンテンツな気もします。

スイスのヴヴェイ

[速水]

これはまたちょっと毛色が変わりまして、スイスのヴヴェイ(Vevey)という町の事例です。レマン湖の畔の町で、ネスレの本社があることで有名な町です。2年に1回イマージュヴヴェイというフォトフェスティバルが開催されていまして。

[黒田]

2年に1回ですか。

[速水]

はい、ヴィエンナーレで、9月に開催されるのですが、人口1万7千人ほどの町にここもやはり2ヶ月間で約30万人ほどの来場客が来ているそうです。ここは屋内外を含め非常に様々な多彩な展示方法、さらにスペシャルイベントやプログラムをやっています。やっている事がちょっと不思議で、2次元の写真を立体的に見せていたりとか、人の大きい顔写真の後ろに木があり、木が茂っていくと髪の毛が生えていくなんて仕組みだったり。日光浴している人の写真を本当の芝生の上に置いていたりとか。

右上は西野壮平氏の地図シリーズ作品

右側は西野壮平さんのジオラマのシリーズですけれど、これも非常に大きい作品を見るためのやぐらまで作って展示してあったりですとか、本当に様々な展示方法があって、平面的ではない写真の見せ方、アマナは『五感で楽しむ』とよく言いますけど、五感で楽しむ写真の展示のあり方というのはこういう形もあるんじゃないかなというところで、ここからも非常に学ぶところが多くありました。

北海道の東川町

そして、北海道の東川町がございます。実は私たち御代田町のプロジェクトは地方創生の側面もかなりあると思っていて。

今、日本は、世界中のどこの国も未だかつて直面したことがないような急激な人口減にさらされています。そんななか、各自治体がどうやって存在感を持って存在し続けられるかを考えられていると思うんですね。

以前からそういう危機感はあったものの、そろそろ本気でみんな焦ってきた、この先どうなるんだろう、と思ってきていているところですが、東川町は1985年からそれを考えている。

[黒田]

写真甲子園のところですよね。しかし1985年からなんですね。30年以上前じゃないですか、何かあったんですか?自分は2歳の頃ですが記憶がなにもありません。

[速水]

そうですよね。これをある一定の年齢層の方に言うと「おおっ」となるんですが、竹下内閣が1億円ずつ自治体に配ったことがあるんですよ、ふるさと創生交付金というもので町おこしをしなさいと。その時、東川町は文化にお金を使うべきだろうと決心して「写真の町宣言」というものをするんです。

写真の町宣言とはどういうものかというと、東川町は美瑛町の隣なんですね、美瑛町は、風光明媚な場所で、その隣にあるにもかかわらず東川町はその当時は有名ではなかった。でもやはりこの美しい北海道の自然の中で、写真を撮って撮られて嬉しい町になろうと決心をする。それが写真の町宣言なんですけど、この宣言がすごくいいのでぜひ皆さん見ていただきたいのですが……。

写真の町宣言をしたことによって彼らは、「心のこもった”写真映りのよい”町」になろうと決心した。そしてそれを守り続けてきた。それはまさにブランディングだと思うのですが、「東川町らしさ」を彼ら自身が形成してきた。その結果、北海道では珍しく移住者が10数%ずつ増えているそうです。

[黒田]

10数%ですか!?

[速水]

地方創生の観点で言えばかなり成功されている町なんです。

[黒田]

驚異的な数字じゃないですか。

[速水]

とにかく彼らは文化にお金を使って、税金も使っている。写真の町宣言もそうですし、ご存知の写真甲子園というイベントも毎年開催されているんです。写真甲子園は、日本中の高校生たちが東川町に集って町の風景や人々を写真に撮って組写真で競うイベントです。そうやって人間の作り出した写真文化と共に生きることで存在感を出していこうということをして成功しているという。ちなみに賃貸の入居率100%なんですって。

[黒田]

そんなわけあるんですね(笑)

[速水]

もう一つすごいのがアマナのカメラマンが東川町を撮り続けていた中で、移住をしてしまいました、アマナを辞めて。

[黒田]

むちゃくちゃじゃないですか(笑)

[速水]

そう、むちゃくちゃすごいんですよ!

[黒田]

これは行ってみたくなりますね〜。

[速水]

たとえば、東川町に「毎日が天然水」というキャッチコピーがあります。これはなにかというと、東川町は”3つの道”がないといわれていて、「1つ目、上水道がない。2つ目、国道がない。3つ目、鉄道の駅がない。」と。そのことを、昔は東川町の人たちが少し引け目に思っていた頃があったと聞いています。

でも私たちから言わせれば東川町って大雪山がある町なんですね。大雪山の雪解け水が井戸水になって、蛇口をひねれば出てくるなんて素晴らしい町じゃないですか。上水道がないということ以上に価値があるものってありますよね。そんな思いをこめて「毎日が天然水」ということを謳っているんだと思います。

こういったブランディング……いわゆる町の既にそこにある地元愛などをきちんと拾い上げて分かりやすく提示してあげることで、さらにその町らしさがきちんと皆さんに伝わって、良い町になっていくという好循環をうむ。日本でもこうやって写真文化と共に生き、歩んでいる町がきちんとありますよという。

[黒田]

あーなるほど。町としても特長があって素敵なんですね。もちろんそれを魅力的に打ち出している点もあるんでしょうけど。そのあたりは発想の転換なんでしょうね。

しかしこと写真に関して言えば、1985年の段階で写真の町宣言というのは考えられないテーマですね。今ほど写真の敷居は低くなかったでしょうから。

御代田プロジェクトもこういった地方創生の側面があるんですか?

御代田プロジェクトとは

[速水]

はい、写真で街を活性化させている例を3つお話しましたが、これが私たちが御代田で何をするのかに繋がっていくんです。

元々このプロジェクトには2つの要素がありまして、1つが国際フォトフェスティバル。それは、先ほどからお話している通り、地方創生の試みとして御代田町という自治体と一緒に写真で町おこしをするという試みです。

もう1つは御代田写真美術館。これはアマナが行う事業でして、日本の写真文化を育てる文化事業として今後アマナが取り組んでいくものとなります。

町と一緒にやっていくというのはどういうことなのかというと、実は御代田町は日本の他の自治体が直面しているような地方創生の問題には幸いなことにまだ直面していません。というのも企業誘致にかなり成功されていて、いくつかの会社であったり工場誘致が成功しているんですね。なので工場で働くような若い年代の方々が比較的多く、就労年代の方々が多いんですよ、なので税収も悪くはない。

[黒田]

ああなるほど。それは非常に大きいですね。

[速水]

人口も減っていないし、いい状況をキープしている町なんですね。

でも御代田町というのは中期復興計画で「文化・高原公園都市御代田」というのを謳っているんですよ。高原というのは標高900mから1000mくらいの町なので土地自体が高原都市なんですけども、では「文化って何なんでしたっけ?」と町の皆さんに聞くと「はて?文化ってなんでしたっけ?」と返ってくる訳ですね。

[黒田]

哲学的な問いですね。

[速水]

じゃあ「文化・高原公園都市御代田ってどういうことなんですかね?」と聞くと、なかなか文化の担い手が見つかりづらいという。そういったお悩みはある。

で、御代田町というのがどこに位置しているかというと軽井沢と小諸に挟まれているんですね。軽井沢には年間900万人くらいの来訪があると言われています、小諸には大体300万人くらいが来ていると言われている、そんな場所にありながら観光資源がほぼ0。浅間縄文ミュージアムという博物館もあるんですけど、ほぼ名前を知られていない町なんです。知ってました?御代田って。

[黒田]

知らなかったですね〜。ミュージアムのことも初めて知りました。

[速水]

町として生き残っていくためには、地域来訪者がやっぱり増えてほしいよねとか、雇用も続けて確保しないといけないよねとか、さまざまな悩みがあります。

アマナは先ほども申しましたように来年40周年を迎える会社で、今まで日本の写真文化に育てられてきた会社なので、写真文化への恩返しという意味も含めて写真文化の発信をしたり、それこそ日本人の非常に優秀なフォトグラファーが世の中に出て行けるような仕組みを作ったり、そういうことをするべきなんじゃないかと。自治体とアマナでフォトフェスティバルと美術館を中心に地域と社会に貢献していけるんじゃないかということを「写真で町おこし」という言葉で表現しています。

[黒田]

なるほどなるほど。そう繋がってくるんですね。そう聞くと、40周年ということに限らず、自分は部外者ではあるもののアマナのミッションとすごくマッチしているように感じますね。

浅間国際フォトフェスティバルについて

[速水]

もう一つの浅間国際フォトフェスティバルの話なんですけど。そもそも一番初めにあったのはフェスティバル構想ではなく美術館構想だったんですね。

[黒田]

もう一つのほうですね。

[速水]

何故ならばメルシャン軽井沢美術館という美しい美術館があったのですが、持ち主であったメルシャンさんがあるとき美術館を手放されているんです。その手放された美術館が町のちょうど真ん中にあるんです。5300坪ほどの敷地がございまして。

[黒田]

それは非常に広大な、、、。

[速水]

そうなんです。そして、町としては、どうしてもその敷地を文化事業に使ってほしかったらしいです。どこか他の会社がやってきて希望に合わない開発がされたりするのはよくない、ということで、町が一旦メルシャンから土地と建物を取得して、その使い手を捜していたという経緯があります。

1995年に開館したメルシャン軽井沢美術館、元々ここはウイスキーの蒸留場だったんですよ。蒸留場と美術館が併設されている建物だったんですが、2011年に美術館が閉館され2013年に町が買い、使い手を捜していた。

アマナとの接点が生まれたのは2015年のことです。自治体なので議会ともお話を重ねさせていただきました。ただ、文化事業として使ってほしい町と写真文化を育てたいアマナ。想いはそこでもうすでに合致はしていたんですね。

[黒田]

どんな縁ですか(笑)想像以上にローカルなつながりでちょっと驚きました(笑)。そういう流れなのか〜!いやーすごい。そしておもしろいです。ドラマありますね!

[速水]

そこでじゃあ一緒に文化事業やりましょうよというムードが生まれたんです。2016年の12月にまずは一緒に写真にまつわる何かを町民の皆様向けにやってみませんかということで、子供からハイアマチュアの方向けに何回かに分けて写真教室を開催させていただいたりですとか、後は2017年の1月に基本合意を締結し、さらに2017年の8月にはいくつかの写真展示を屋内外でやらせていただいたりしました。

そして今年の5月に、町役場で旧メルシャン軽井沢美術館の土地活用についての協定というものに調印し、今年浅間国際フォトフェスティバルのプレを開催するという発表をさせていただきました。そして、2019年というのが私たちアマナにとって40周年の年ですので、この年にアマナのコンテンツの集大成というか、大型コンテンツ、写真を使った大型イベントとして、浅間国際フォトフェスティバルの第1回をやります、と。

その後に、御代田写真美術館の開館を目指して準備を進めていこうということになっています。そして、先ほどフランスのラ・ガシイに御代田町の町長とご一緒した写真があったと思いますが、私たちフォトフェスティバルをやりますやりますと言っても、フォトフェスティバルってなんですか?って皆さんおっしゃるんですね。それはラ・ガシイに行く前の町長も同じだったんですよ。

実際にラ・ガシィに行き、大型写真が自然の中に展示されていて、それを人々が見て楽しみながら過ごしているのを見た瞬間に町長は理解したわけですよ、写真で町おこしというのはこういうことかと。

私たちはそれを町長以外の他の人たちに向けてもやるべきなんじゃないかと。

なので、私たちがやりたいフォトフェスティバルとはこういうものなんです、というものをきちんと見せるために今年の夏、小規模高品質でプレフェスティバルを開催しましょうということになりました。

[黒田]

なるほどなるほど。いま、全ての点が一本に繋がりましたね。そういう流れだったんですね。

[速水]

そうなんです.それで今一生懸命準備をしています。

なぜ「浅間」なのか

[速水]

御代田町でやることなのに、そして御代田町の町おこしですることなのになぜ「浅間なんですか」って皆さんに聞かれるんですが、将来的には御代田町に閉じたものではなくて、軽井沢ですとか小諸ですとか、もっと言えば北軽井沢の方ですとか、広域で育っていくインターナショナルフォトフェスティバルになってほしいという気持ちもこめて、浅間国際フォトフェスティバルという名前をつけました。

[黒田]

なるほど、浅間なら聞いたことある人も多いでしょうしね。

[速水]

フェスのコンセプトは、先ほどもお話しましたように、コンテンツディレクターが太田(太田睦子氏)ですので、太田がしっかりとコンテンツを決めています。

文化・高原公園都市を標榜している御代田町なので、公園というのは人と人との交流の場であったり文化ということ自体がやはり交流だったり。さらには日本って本当にカメラ大国じゃないですか、皆さんその最中にいらっしゃると思うんですけど。そのカメラ大国の中でカメラ大国日本らしいフェスティバルというのを開催するべきなんじゃないかというコンセプトです。

で、プレフェスティバルのテーマは「Return to camera」。写真に還るという言うことで、カメラオブスキュラが生まれた時から今の最新のVR技術ですとか様々な見せ方がある中で、そのそれぞれを楽しんでいただけるようなフェスティバルにしましょうという意味もこめて、Return to cameraという名前にしていると思います。

[黒田]

いいですねえ。すごくいいです。

[速水]

そして8月11日から9月末まで、エリアというのは先ほどお話をしましたとおり、プレなので小規模高品質ということで、5300坪の土地の中で屋内外様々な表現を使ってやっていくと。主催は浅間国際フォトフェスティバル実行委員会になりますので、これは御代田町とアマナの合同組織になります。委員長が御代田町長、副委員長がアマナの進藤、コンテンツディレクターが太田、もちろん私もその実行委員会のメンバーです。

[黒田]

ちなみに5300坪って言うのは、美術館の土地ですか?

[速水]

そうです、まさにあそこ一体が全部で5300坪です。

[黒田]

じゃあ全体として美術館の土地だったんですね?

[速水]

美術館として使われていたエリアということですね。この土地の中には散策路があり、美術館本館として使われていた建物があり、ウイスキーの試飲ができた建物があり、さらにレストランもあったんですね。なので4つ大きな建物が建っていてそれがそれぞれに使われていて、その一帯がメルシャン軽井沢美術館と呼ばれていました。

[黒田]

なるほど。5300坪って相当大きいですよね。一見森のように見えるので。

[速水]

是非夏にお越しいただきたいのですが本当に美しい建物なんですよ。フランス人のジャン・ミシェル・ヴィルモットというかなり著名な建築家が、古いウイスキーの蒸留所・貯蔵庫をリデザインして、美術館に生まれ変わらせたのだと伺っています。蔦が這っていて今の時期は緑で美しいですし、秋の時期は真っ赤に紅葉して本当にきれいです。

[黒田]

季節感ありますね。かなり壮観だと思います。

[速水]

今構想中の屋内外の展示についてですが、例えば藤原聡志さんの大型で立体的な展示、以前のIMA記事のテーマが「立体化する写真」だったと思うんですけど、まさにそういうことを実際に見せていく。平面的ではない、平面的だったとしても非常に大きかったりとか、立体的だったり、今までとは違う感じ方楽しみ方をしていただける写真の見せ方を様々に展示をするという。建物の屋内外をそれぞれ歩いて楽しんでいただきながら、たとえばうつゆみこさんの展示は森の中でのきのこ探しをするみたいな感じで。

[黒田]

インスタレーションのような要素もあるんですね。

[速水]

そうなんです。アートフォトなんですが、モダンアートのインスタレーションとほぼ境目がないです。

[黒田]

そのイメージはありますね。取り組み自体がモダンだと思いますし。

[速水]

インターナショナルの名前に恥じることがない国内外のいろんな作家さんたち、主に若手の方を中心に、そんな感じで予定しています。

コンセプトに基づいた展示はもちろん、私たちの最終目標は写真を楽しむという事ですから、やはり総合的に楽しんでいただきたいというのがありまして、メイン展示だけでなくて様々な関連するイベントを用意しようとしています。現在は映画のイベント、ワークショップ、写真教室、もう一つは広場コンテンツ(フォトブースやフードや物販ブース)なんですが、映画のイベントに関しては去年のカンヌで最優秀ドキュメンタリー賞を取っている、ヌーヴェルヴァーグの唯一の女性監督アニエス・ヴァルダと若手アーティストJRが、二人でフランスの田舎町を旅して作品を作っていくという、なんてこのフェスにピッタリなんだという映画がありまして、それが今年の秋公開されるんですね。それに先駆けましてその上映会をこの御代田でやろうということになっております。

あとはワークショップや写真教室とか広場コンテンツですね。このトレーラーを是非ご覧いただきたいんですけど。

「Faces Places(英題)」

[速水]

JRとアニエス・ヴァルダがトラックに乗って旅をするわけですよ。

[黒田]

ロードムービーみたいな感じなんですね。

[速水]

トラックが写真の撮影ブースになっていて、そこで撮影した写真を町中に貼っていくというプロジェクトなんです。

[黒田]

それはおもしろいですね。ドキュメンタリーでもあると。

[速水]

これが今年の秋に日本で公開されるっていうのが奇跡みたいだなと。ヴィザージュ・ヴィラージュとは顔と村々という意味ですね。で、映画の上映を御代田町でやるのと同時にこのフォトブースを御代田町に持っていって町民の方々の写真を撮って、会場に貼るということをします。

町の人たちにとっては、恐らく初めてであろう自分の顔がこんなに大きく印刷されて貼られるという体験をしていただく、これはもうまさに五感で感じる写真ということですね。

[黒田]

日本では中々生まれなさそうな発想ですね、、、。すごいな。

[速水]

こういったこともやりますし、アマナ所属のカメラマン小山(小山 一成)が、プロジェクトが始まった直後から御代田の四季を撮り溜めているんです。

それが本当に素敵な写真で、本当に公園の多い御代田、浅間山の麓の非常に美しい自然があり、竜神祭りというお祭りもあったり、高原野菜が名物なのでブロッコリー畑などもあり、美しい浅間山をいつも見られる、様々な表情を見せる本当に美しい町。そうしたものも同時に展示をする予定です。

[黒田]

そういった写真があるのも良いですね。

[速水]

あとはキッチンカーや地元のレタスを使ったホットドックとかそういったものも楽しんでいただければと。

写真美術館について

[速水]

で、チラッとだけ写真美術館の話をさせていただくと、アマナの「the amana collection」というコレクションを戦後の日本写真の歴史を一望できるというコンセプトでオリジナルプリントをアマナがコレクションしているというものがございまして。たとえば蜷川実花さん、濱田祐史さん、澤田知子さん、西野壮平さん、米田知子さんといった日本人若手写真家の作品ですね。こういったthe amana collectionと一般の方々の接点を作るという意味も含めて御代田写真美術館というものがあります。浅間国際フォトフェスティバルの開催発表をさせていただいたときに新聞記者の皆さんから様々な質問が出たんですね。例えば「この展示される作品はプロの写真家の方の作品なんですか?」とか、「アマナさん所属のカメラマンの作品なんですか?」とか。新聞社の方からするとまぁそうかもしれない、社カメが居てということなのかも知れません、でもこちらの意図と皆さんの受け止め方というのがやはり多少のずれがある。

[黒田]

うーん、まあそこは残念ながらそういう認識のズレはあるでしょうね。しかしそういったコレクションを魅せられる場所として美術館というのは素晴らしいですね。

[速水]

文学作品や文字で読むものにも様々あるじゃないですか、たとえば読んですぐ分かる新聞の記事、それこそ古典とかショートショートとか、色んな味わい方ができる。写真も同じだと思っていて、アマナはどちらかといえば「パッと見てすぐに意味が分かり何らかの気持ちをそこで刺激される広告写真」というのを撮って生業として生きてきたところがあると思うんですね。でもアート作品というのはその作品と向かい合ったときに自分の今までの経験とかその写真と自分との関係とか、そのときの環境とか、そういったものも含めて感じて咀嚼して自分の中で味わっていくもの、もちろん作品のコンセプトも含めえて感じていくものって言うのが、やはりアート作品なのじゃないかと思うのです。

そういったアートフォトという文化、日本が誇る大切な文化、と一般の方々の接点を作り続けていくというのが最終的には、町の人たちも喜んでいただけることだし、私たちにとってもその写真文化を育てていくということですし、もちろん作家さんにとってもそういった場が得られるということだったりするので、意義深いことなんじゃないかな、という風には思っています。美術館の方はthe amana collectionを中心として、企画展等様々な、最終的には観光地が「東京・京都・御代田」みたいに言われたり。こんな、何を冗談を言っているんだと皆さん思っていることが30年後にはもしかしたら現実になるということを考えてやっております。

というのが、大体の概要ですね。今の予定では、皆さん会場に来たいというご要望もいただいていますので、会場で実際に作家さんとお話していただいたりといったことも出来るような場になりそうです。後は作家さんのトークセッションですとか、ツアーですとか、そういったものも含めて計画をしていますので総合的に楽しんでいただけるはずです。お子さん達がワークショップで学んでいる間にお父さんお母さんは芝生で写真を見ながらビールを飲み満喫していただくというような新しい写真の楽しみ方をしていただけるようなフェスになるといいなと思っています。

[黒田]

ありがとうございます。思った以上のボリュームで驚きました。プレということもあるのでしょうけど、展望がすごいですね。もう既に今年をすっとばして来年が楽しみというか(笑) これは時間つくっていかないとな〜。

[速水]

実は情報が盛りだくさんなんですよ(笑) 情報を出していないだけで。

今後の目標について

[黒田]

今年開催する浅間国際フォトフェスティバルは、一般の方々向けに発表する予定とかはないんですか?

[速水]

今年に関しては大々的なプロモーションは予定していないです。

[黒田]

最初に小規模で品質の良いものをという話をされてましたけど、めちゃくちゃもったいないなと。

[速水]

そうでしょう、結構本気ですよ!

[黒田]

ゲネプロではないですけど、リハというよりかは本番でしょという。

[速水]

割と本番ですよね。

やはり日本でこれほどの規模のものって前例がないということもありますし、修行中という部分があって。でもやるからには本気です!

[黒田]

わかります、それが今の時代にどれだけ刺さるのか、必要とされているのかという部分は読めないですよね、そこは確かにありますよね。しかし、そういう認識はありながらこうして当事者が本気の情熱をもって取り組むというのは意外と組織として難しいものだという実感があります。

皆さんのもっているビジョンか、アマナのミッションが根付いているのでしょうかね。社内の文化ができているのだろうなと感じます。

[速水]

やはり、こういう暑苦しい話をいたるところでするわけですよ、すると皆さんそこで意義を感じてくださる。私たちの今の望んでいることはもちろん遍く皆さんにお伝えするということまで本当はできたらいいんですが、でもできるだけ多く、現実に私たちと向き合ってくださっている人たちが御代田に足を運んでくださって、もしくは御代田の町民の皆さんが会場まで来てくれて、「写真で楽しむってどういうことかわからなかったけどこういうことなんだね」という発見をして、来年また来てくださるという状況を作ることを目標にしているんです。

なので例えば今年から東京から御代田に人が呼べるかと言うとなかなか難しいと思っていまして、軽井沢までお越しになっている方々にちょっと御代田まで足を運んでいただくとか。写真に興味のある人たちに来ていただいて来年また足を運んでいただくということをまず目標にしてます。

[黒田]

なるほど。せっかくこういう対談を設けさせてもらったので、我々が行こうよ!というのはかまわないですか?というか、この発言も記事に掲載したいんですけど(笑)

[速水]

もちろんです。喜んで。

[黒田]

ありがとうございます(笑)

[速水]

というか来てくださいね?(笑) きっと楽しいはずです。あと最高の気候をお約束します。

[黒田]

そうですよね、季節がいいですよね

[速水]

サンフランシスコみたいですよ、標高も高いですし湿度が低くて。

[黒田]

天気はどうですか?

[速水]

晴天率が高いエリアなんです。

[黒田]

じゃあ良いサンフランシスコだ。

[速水]

そう(笑) 良いサンフランシスコです。

8月11日「山の日」オープン!

[黒田]

実際、浅間国際フォトフェスティバルの期間はけっこう長いじゃないですか。その期間中はずっと常設されている展示であったりとかイベントやワークショップはあるとは思うのですが、そのあたりのスケジュールはHP上で発表されていくんですか?

[速水]

はい。すべての期間中で展示はお楽しみいただけます。

8月11日「山の日」にオープンなのですが、11日から19日のお盆の時期に関しては全力で皆さんをおもてなししますので、ワークショップやイベント等を毎日何らかの形で行いますし、あとはお食事関係もキッチンカーに何台か来てもらいますしマルシェもできる予定です。そのあとは週末を中心にイベントやワークショップ、お食事等はご用意する予定です。

隠れた御代田の魅力

[黒田]

本当に夏なので皆さん避暑地それこそ軽井沢に行かれたりするじゃないですか、その感覚で遊びに行けるということですね。

[速水]

是非、バッチリです。

御代田の良いところは軽井沢から車で来ることができるのですが、軽井沢で新幹線を降りてしなの鉄道という鉄道に乗っていただくと、3駅、15分程度で御代田駅に着くんですよ。そして御代田駅から歩いて7分くらいのところに美術館がありますので、美術館でビールを飲んだとしても大丈夫。電車で軽井沢まで帰れてしまう。

すぐお隣の佐久市にある「ヤッホーブルーイングよなよなの里」にご協力いただけて、会場で生ビールも飲めます!軽井沢高原ビールや夏限定のビールにしようかなんて考えています。

[黒田]

コラボレーションが多いですね。

[速水]

そうなんです。やはりもちろん自治体と共に歩んでいきますし、 近隣の事業者さんだったり、仲間をどんどん作っていきたいです。また、同時にスポンサーさんも募集していますので、いろんな形で皆さんと共に作るフェスティバルにして、全ての人に開かれた楽しい場所にしたいという想いです。

[黒田]

アマナが掲げる「Living with Photography」というテーマで、生活の中に写真をというコミュニケーションというところで、それで普段写真を撮る撮らないとかではなく、見て楽しむ人であったり、見ていない人もむしろ見て楽しめる、知ることができる場所を作ろうというプロジェクトだと思うのですが。逆に写真をやっている人間がいて、そこで写真を観光がてら撮るとか、写真にすでに興味がある人たちが行って楽しめるようなところもケアするということですかね。

[速水]

はい、基本的にはワークショップ等に関しても、様々な写真の楽しみ方を提案しています。例えば、お子さんといらしていただいて、マーティン・パーの作品を見ながら同じように塗り絵をしていただくとか、あとはうつゆみこさんという「きもかわいい」作風の女性の作家さんがいらして、イカや野菜やエリンギなどを使った作品を撮られているんですが今回は御代田は高原野菜が名物なので、御代田のレタスを使った作品を作っていただいています。そのうつさんのワークショップとか。

[黒田]

それを使った写真を撮ろうという。

[速水]

そうです、そういった本当にただひたすらに楽しいワークショップなどもありますし、他にはより深いコンテクスト的なところに食い込み、作家の作家性を直に聞くというようなワークショップ等もありますし。

[黒田]

様々なレイヤーにフォトグラファーがいると思いますけど、全員ウェルカムという感じですね。

[速水]

はい。皆さんウェルカムです。先ほど私共の小山というカメラマンが御代田の四季を撮っていますというお話をしましたけども、この1月にエコールみよたという公民館で一度展示をしたんですね。そうしたら小山と私が一緒に設営をしている時に、たまたま公民館に用があっていらした町民の方が近くまで来てくださって「これはどこから撮ったの?何時?」って聞いてくるわけですよ。

地元の写真が好きな人たちなんですよね。まだ気づいてない自分の町の魅力というものがたくさんあるよ、というのを違った目線で見せるのももちろん私たちの仕事ですし、写真の写真性みたいなところだと思います。そういうことをしていくことで、「我が町再発見」ではないですけれど、カメラ好きの人たちが新しいアプローチで撮っていただくということもできるようになりますし。

アトラクションのような作品構想

[速水]

あと、目下製作中の「猫も杓子も(catgraphy)」という作品があるのですが、約3mの巨大なオブジェの猫がカメラを構えているというものなんです。私たちが猫の前に立つじゃないですか、そしてタッチパネルで操作すると、上から猫が私たちの写真を撮ってくれるという。もちろん猫を私達も写真に撮るじゃないですか、撮って撮られるという皆が面白がれるような作品です。

[黒田]

これはフェスティバル中に常設されるものですか?

[速水]

常設しています。

[黒田]

もうアトラクションに近いような変革要素までありますね。

[速水]

写真をテーマに色々楽しんでいただける仕掛け、それが五感で楽しむということだと思うんですね。ものすごい大きな猫がカメラを構えているところを見上げながら写真を撮ってもらうみたいな。普通ないじゃないですか。

[黒田]

ないですね(笑)

すごいなと思うのが、そういう需要が未知の領域に対しても全力でやってるじゃないですか。その不安の抑え方というか。プレッシャーとか相当なものでしょうし、なんかそういうところが気になってしまいます(笑)

[速水]

不安100%です。毎日動悸がとまらないです、本当に。

[黒田]

それはちょっとお察しします。

[速水]

やはり私たち法令遵守で、どの高さなら問題ないかとか、構造上安全かどうかとかも検証しながらやります。また、他にも例えばいろいろな展示、木々の間に大きな写真が揺れているとか、展示の屋外はすごく日差しの強いエリアなので、タープのような日よけでもあるし作品でもあるようなものとか。そしてそれは高低差を使ってある場所から見下ろせるような、そんな仕掛けも構想中です。

次に向けて

[黒田]

もう少し浅間国際フォトフェスティバルの話もお聞きしたいのですが。プレをやるじゃないですか、そこで得られる様々な反応とかもあると思うのですが、そういったものを見て第1回をやるということですよね。

[速水]

はい、さらに全力で来年やります。

[黒田]

そうなるとあと1年しかないとも言えますよね、第1回もプレと同じ敷地内で行うんですか?

[速水]

来年に関しては、プレの敷地内は最低限やって、さらに広域に広げていきたいと思っています。最終的な目標としては「世界中から、フォトフェスティバルに来るために御代田を目指して人が来る」、という状況を作るというのがゴールかなと思っていて。まず今年は敷地内でやります。そして少しずつ広げていって来年は御代田のいろんな場所で展示をしていって、スタンプラリーのように回っていただいたりですとか、町のまだまだ沢山ある良いところで展示をして、町中が写真の町になっていくということの片鱗が感じられる来年であればよいなと。

[黒田]

なるほど、参加型のコンテンツを全部アマナが作られているわけですよね。そこにユーザーが参加するようなものはありますか?例えばコンテストのようなものとか。

[速水]

将来的にはそういったことも考えていますし、あとはポートフォリオレビューですとかそういったことも考えています。

[黒田]

ポートフォリオレビューがあれば本当に写真家を目指す人たちにとっても憧れのフォトグラファーもいらっしゃるわけですし、写真の登竜門として一般ファンとして、ユーザーとして、そして写真家としても将来を担っていく人たちにとって聖地となるようなイベントになりそうな。

[速水]

本当にそのとおりですね、やはり冬の時期は私たちは集客が難しいと思っていますので、それを逆手に取ってアーティストやフォトグラファーの方々が御代田にお住まいになって冬の間に作品を作っていただいたりですとかも考えています。

他の構想としては私たちはプラチナプリントの工房が海岸エリアにあるんですけども、そういう工房的なものを敷地内に作り、この世界に印刷という形で、物理的に写真が生まれる瞬間。そういう瞬間が垣間見える場所もゆくゆくは作りたいという構想もあります。

暗室作業は本当にとても楽しいんです。やはり写真が生まれてくる姿を目の当たりにすると感動する方が多いと思うんですよね。そういったものを見てほしいというのもあります。また、そういう流れで去年に日光写真のワークショップをやったんですね。

[黒田]

日光写真ですか?

[速水]

太陽の光で画像が浮き上がってくる液体がありまして。支持体は布でも紙でも何でもいいんですけど、その感光液を支持体にぬって、上にフィルム(ネガ)を乗せて太陽にあてると、だんだんと絵になって浮かび上がってくるというものです。

[黒田]

あ〜、見みました。ニュースか何かで。

[速水]

そのワークショップを去年やって好評だったんです。実際は暗室作業と原理は異なりますが、体験としては追体験できるような部分がありまして、そういったワークショップをやったりとか。なので、本格的なことをわかりやすく様々な方々向けにやっていく、それが最終的には写真文化の振興という部分につながっていくのではないかと思っています。

[黒田]

そうですね、本当に創造している風呂敷の広げ方が多方面というか、全方位的に夢はいっぱいな、でもそれだけの規模と情熱があるというのをお話を聞いていて感じますね。今後将来、写真家でも商業フォトグラファーでも良いと思いますが、日本であったり写真界を背負っていくような方がこういう写真の町で生まれるとかそういうドラマも期待できると思いますし、それは面白いですよね。

例えば、美術館の話を伺っていると、清里フォトアートミュージアムであったりとも浮かんでくるんですけどそういうコレクションをこう単純に展示していくというところとか、企画展をしていく出会ったりとか、実際のリアルのイベントもあるじゃないですか、Webに関してどこまで連携されるかわかりませんが、IMA ONLINEもありますし、実際にできるだけのリソースというかコンテンツプラットフォームはすでにそろっている状態なのであとは熱をどれだけ巻き込めるかというところなのかな、という感想は受けました。

あと、いま色々な方のお話を各所で聞くことが多いのですが、地方との関わりを積極的に持たれて写真と地方創生というテーマで動かされているところは多いと思います。いまは目立って横のつながりにはなっていないようですけど、数年後には一つのムーブメントになるのではないかな?とも感じています。

[速水]

私、地方創生の仕事も一方でやってきたんですけど。やはりこういうことはアマナがやるべきなんじゃないかって思いました。特に写真に関しては。

[黒田]

部外者が無責任ながら、それは思います(笑)

[速水]

そうなんですよね、今回もプロジェクトでやっていて思うのですが。アマナにはプロデューサーがいてWEBデザイナーももちろんいて、アートディレクターもいて、もちろん一流のカメラマンもいて、ドローンも飛ばしちゃうし、動画も作れるよ、みたいな。

[黒田]

そうですよね。

[速水]

恐らく例えば私個人でやろうとしたら、言ってもすごく大変なわけです。ほとんど不可能なことだと思います。ただ、写真文化への恩返しという意味も含めて、アマナという企業が、私たちができることは提供して自治体さんとともにやっていこう、という。やはりそこのところは尊いことだなと思います。

[黒田]

リソースだけで言ったら他の会社でもあると思うんですよね。ただ、組織としてどうしてもフィロソフィーというかビジョンの部分がマッチしていて、且つ実際にそれをやり遂げられる会社が少ないんだと思います。アマナさんはいま実際にやっているわけですけど、熱を感じるというか、今に関してもそうですしコンセプトストアもそうですし。日本とか文化であったりとか、日本のカメラ大国という意味で言うとどちらかというと日本がやるべきとも思いますし。

でも、一企業が恩返しでやるってそれもうドラマでしょって言うレベルのお話になっているのが外からは魅力的に写ります。だからこそ良いと思いますし、そこまでビジネスも絡まないというか、参加する側も楽しくいけますし。変な話、メーカーさんがどうしてもプロモーション要素が混ざってしまいますから。

[速水]

そうなんですよね。プロモーションにならざるを得ないじゃないですか。

[黒田]

そうですよね。

[速水]

そちらの事情もよく分かるんです。私はどちらかと言うと、ずっとビジネスサイドにいて、いかにマネタイズするか、みたいな事を考え続けてきた人生でしたので、ここにきてこのプロジェクトか…というのは個人的にはもちろんあります。でも、私広告写真大好きなんですよ。ただ、やはり、分かりやすく消費され続けるビジュアル、というのがある一方で、文化として残していく何かをきちんと作っていくというフェーズに来ているのではないかなという気持ちがあり。

もちろん広告ビジュアルが消えるとも思わないですし、それはすごく大切なものですしそれはもう文化だとももちろん思います、ただやはり残っていく何か、残していく何かに目を向けたいなと。

[黒田]

それは自分もよく考えますね。アートという文脈で考えたときに広告はやはり消費されていってしまって、思い出した時にあぁ良い広告だったな、良いビジュアルだったなというのがあると思うんですけども。

じゃあその一方で数百年前に描かれた絵でも今いろんな人に見られているわけじゃないですか。美術館だとかアートだとか文化というところにゆくと写真もどれだけ長く残っていけるのか、しかもそれは記録的側面ではなくてアートとしての文脈で「100年前に撮られたあの写真めっちゃ良いよね」というのが後世に伝わっていくような。

写真というメディア自体の再定義ではないですけど、そうなってほしいですし、そういうフェーズに行かないかなとは思っています。撮るやただ美しいものを仕上げるという点においては、テクノロジーによってどんどん敷居が低くなっていくので。常に新しいことをやらなければいけないというのはちょっと違うんじゃないかなというのは思っていますね。

[速水]

やはり、アートって私は人を救うものであってほしいと思うんですよ。いきているなかで、辛いことはやはり色々あるじゃないですか。科学もそうだと思うんですけど、芸術も同じで、人間の生存環境の辛さを緩和するもの、簡単に言うと人を救うものであるべきなんじゃないかなと思うんです。特に写真という、身近な誰もが作り手にもなれるし感じられるようなものが人を救っていく、人生を豊かにしていくものであるならば、それは本当に素敵なことだと思うんですよね。

[黒田]

それは間違いないですね。しかも参入障壁が以前と比べてある種低いので、良くも悪くも。

[速水]

毎日私は絶望していますよ、一流の人たちに囲まれている一方で、自分があまりにもクリエイティブの才能がないので。

[黒田]

それもわかります(笑)、それでもやはり、誰もが最初の一歩ははじめやすい世界だから、分母も増えて傑出した才能が発見されやすいのかなとは思います。

[速水]

そうかもしれませんね。

[黒田]

野球とかサッカーとかみんなやりますけど、分母が大きいほうがスターが生まれる可能性があるのかなとも思いますし、いまAPAさんとかも学校と一緒に写真の授業をやられていたりとか公共教育とかにも入ってきているみたいですし、日本文化として写真が武器になると良いのかなとは思いますよね。フランスのワインやシャンパンといったレベルで。すでにハードウェア的には「カメラ=日本」というのはあるとは思いますが、プレイヤーとしてもそのイメージが世界共通認識となって写真大国にもなれたら良いですよね。

[速水]

本当にそうですよね、カメラ大好きだよねとは思うけど、写真大好きなのかなと思うとちょっとどうかなぁって。

[黒田]

でもどうなんですかね、今のコンテンポラリーなフォトグラファー、アーティストとしてやる人もそうですし、商業目指している方もそうですけど、カメラマンの数はとても多いのかなと思っていて、それを一つの国として見ると日本はものすごいアベレージが高くて、クオリティの高いフォトグラファーやハイアマチュアが多いと思うんですけど、海外全体と比べた時に島国という日本語の壁で世界に出て行きにくいだけなんじゃないかって。

その点でそれこそ太田さんもそうですけどIMAの方で海外のギャラリーとのコネクションを提供したりとかというのも結局なんか遠いところで今回のプロジェクトとも、アマナ自体の思想が繋がっていて、それが各プロジェクト、各部署に浸透しているんだなというのをすごく感じますね。

[速水]

行き届いてますよ

[黒田]

目標は写真国家で。かなり夢ありますよね。

[速水]

ええ、夢ありますよね。

[黒田]

楽しみですね。

[速水]

とにかく皆さんと会場でお会いしたいです。是非、浅間国際フォトフェスティバルへお出かけください!

[黒田]

はい!とても楽しみにしています。それでは、本日はお忙しい中、ありがとうございました!

プロフィール

速水桃子

株式会社アマナ 御代田プロジェクト プロジェクトマネジメント

クレジット

制作​ 出張写真撮影・デザイン制作 ヒーコ http://xico.photo/
カバー写真​ 黒田明臣
出演​ 速水桃子
Biz Life Style Magazine https://www.biz-s.jp/tokyo-kanagawa/topics/topics_cat/artsculture/

「浅間国際フォトフェスティバル」

株式会社 アマナ | amana inc.

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