オペラが顔を覗かせているのでおやおやどこにかくれんぼしてるんだいとそっと拾いあげると、見た顔と少し違ったので驚いた。そう、それはopera 50mm F1.4 FFではなかった。
今、手の中にある新たなopera(オペラ)は、その名をTokina opera 16-28mm F2.8 FFと言った。
整然と並んだ数字とアルファベットの羅列は、重厚な存在感を放つこの広角レンズに近しくもそっと寄り添っているように見えた。私の心では、不確かな何かと確かな何かが静かに対峙を始めていた。これからその冥利に触れる未曾有の時間を進行していこうと思う。
Tokina opera 16-28mm F2.8 FF × Yusuke Suzuki
はじめに
今回はTokinaがoperaシリーズ第2弾として世に送り出したopera 16-28mm F2.8 FFをご紹介します。前回の50mm F1.4 FFレビューに引き続き、ラブミーテンダネスでおなじみ鈴木悠介(@monocolors_)が、撮り下ろしポートレート・スナップ作品を紹介しながらお送りいたします。レンズの魅力はもちろん、operaシリーズというTokinaが創造する思想深度を知る機会としても読み進めていただけたらと思います。どうぞよろしくお願いします。
opera 16-28mm F2.8 FFの特長
焦点距離 |
16-28mm |
---|---|
明るさ |
F2.8 |
対応フォーマット |
フルサイズ |
最小絞り |
F22 |
レンズ構成 |
13群15枚 |
コーティング |
新多層膜コーティング |
画角 |
107.1°~76.87° |
フィルターサイズ |
装着不可 |
絞り羽根枚数 |
9枚 |
最大径 |
Φ89.0mm |
フォーカス方式 |
フロントインナーフォーカス |
全長 |
Canon:136.5mm |
重量 |
Canon:950g |
フード(付属) |
固定花形フード |
対応マウント |
ニコンFマウント JANコード:4961607634677 |
Kenko Tokina HPより仕様表引用
opera ブランド
opera 16-28mm F2.8 FFは、2010年に発売されたAT-X 16-28mm F2.8 PRO FXの正統進化系レンズとして新たにoperaシリーズに加わりました。私はこの正統進化系レンズという点に、Tokinaのoperaシリーズに掛ける思いを推し量らずにはいられませんでした。なぜならopera50mmレンズのように完全な新規レンズであっても、16-28mmレンズのように後継機という位置付けであっても最高峰のレスポンスを示していればoperaシリーズへの参入は厭わないという姿勢です。operaを最高峰レンズシリーズへとスケールさせるTokinaの思いに武者が震います。
P-MO非球面レンズ
とはいえ、このopera 16-28mm F2.8 FFのモデルとなったレンズがどのレンズであってもよかったということではありません。そのレンズがAT-X 16-28mm F2.8 PRO FXという素晴らしい名玉レンズであったということに大きな意味があるように思っています。その実、opera 16-28mm F2.8 FFがAT-X 16-28mm F2.8 PRO FXでなければならなかったという点に関して、使用していた優良なP-MO非球面レンズに寄るところが大きいように感じます。本レンズはP-MO非球面レンズをopera用に新たに進化させ、歪曲収差向上やゴースト・フレアの低減に至るまで見事なエボリューションを遂げています。
※AT-X 16-28mm F2.8 PRO FXレンズに関しては、Tokina HP下記URLをご参照ください。
https://www.kenko-tokina.co.jp/camera-lens/tokina/wide-lenses/at-x_16-28_f28_pro_fx/
純正レンズに合わせた設計
opera 16-28mm F2.8 FFは、50mmレンズ同様Canon、Nikon用にフルサイズ対応をしています。フォーカスリングの操作性はそれぞれの回転方向に準拠しており、ユーザー心理としてはとても好感が持てます。初めて使用した際に操作性に違和感がないことは、レンズの本質に触れる最短チケットを手にしているも同然と言えるでしょう。
AFの静音
AF駆動音の静穏性が非常に高く、DCモーターと減速ギアユニットを一体化させ密封状態にすることでAFの静音に有益な効果を発揮しています。実際撮影時にAF駆動音が気になったことはありませんでした。
ちなみに、撮影時カメラやレンズから発生される「音」は撮影をスムーズに進行していく上でとても重要な要素だと思っています。その音が心地よく感じられるのかそれともその逆に思えてしまうのか、その音の種類によって受け止め方が異なるように感じます。
例えば、シャッター音。シャッター音はカメラによってはサイレントモード対応により完全無音なものもありますが、好みのシャッター音であれば、撮影に有益なテンポが生まれ、高いモチベーションの維持をサポートしてくれる場面もあると思っています。その一方で、AF駆動音のようにある種気になってしまう音、テンポを遮るように感じられてしまう音もあるのは私としては実情で、そうした側面としても本レンズのAFが静音であることにポジティブな印象を受けました。
圧倒的描写力の創造
opera 16-28mm F2.8 FFを語る上で最高峰の描写力を言葉少な気にすることはどうやら回避できそうにありません。それほど撮影をしたら「話したくなるレンズ」と言えるのではないでしょうか。
例えば、とにかくお腹が空いていて、ただしばらくは食事にありつけそうになく、精神でお腹が減っていないと肉体の凌駕を試みるも「グ〜」と無情にもお腹は正直に鳴ってしまうといったあの状況に似ているほど話したくなるレンズと言えます。そもそもなんの話をしていたのかお腹が本当に減ってきてしまう前に、opera 16-28mm F2.8 FFの圧巻の描写力を紐解いていきたいと思います。
高コントラスト / 精巧な色彩描写
opera 16-28mm F2.8 FFを使用してまず初めに飛び込んできた描写性のインパクトは、その重厚な高コントラストと精巧な色彩描写でした。
まずはそちらを実感していただきたくこちらの写真をご覧ください。

重厚なコントラストは一目瞭然。
とりわけ立体感を伴った建物の描写は地に根を張るように重く、写真全体に対して下部の存在感を強固な印象なものとして成立させています。加えて、この重厚なコントラストに対して色彩描写が滲むことなく精巧に描写されています。下記に拡大した画像では、そちらを実感していただけるはずです。
この重厚なコントラストを持ってしても色のりの滲みはほとんど見られず、ここまでの拡大表示に対して色彩描写がその緻密さを失うことはありません。opera 16-28mm F2.8 FFは高コントラストと精巧な色彩描写の両立を鮮明に導き出したレンズと言えます。
また、シャドウ部の黒のしまり加減もこの重厚なコントラストを引き出す大きな役割を果たしています。




この黒のしまりは写真全体の輝度差を明瞭にするだけでなく、シャドウ部に至ってもダイナミックレンジの広さを無駄にすることのない丁寧な階調グラデーションを作り出しており、その描写力の高さを垣間見ることができます。
絞りの二面性
opera 16-28mm F2.8 FFの絞りは、開放時の柔らかなボケみと一段絞る毎に急激にシャープになっていくという特徴的な二面性を持っています。
ここでその絞りに応じた変化をご覧になっていただけたらと思います。






下部から上部へと水面をなぞるように緩やかなボケみが進み、ピントは上部に当たっています。水面にある細やかな波の線は絞りの上昇によってそのシャープさが大胆に増していることがわかります。
opera 16-28mm F2.8 FFがもつこの絞りの二面性は、表現に与える影響力は非常に大きく、開放時と段階を経て大きく変化する絞り具合を把握し状況に応じて自在に表現に取り込むことができれば、理想的なイメージに近づくことのできる有力な手段として、なくてはならないレンズになることでしょう。
天候による描写性
今回は晴れと曇りの条件下でその描写力を比較してみました。
【 晴れ 】




晴れの光の条件下では、opera 16-28mm F2.8 FFの描写性をより一層実感できる機会となります。上記掲載の4枚の写真をご覧になっていただいてもお分かりになるように、階調グラデショーンは、明瞭な輝度差の大小に関わらず丁寧に描写していることが伺えます。
加えて、本レンズの大きな特長の1つと言える高コントラスト高彩度も存分に実感でき、前述した黒のしまりの効果もあって写真からは明瞭な重厚感を感じることができます。opera 16-28mm F2.8 FFは、階調グラデーションの緻密さと精巧な色彩とのバランスを巧みに取り、凛とした重厚感のある描写を成立させています。
【 曇り 】


上記掲載の写真は、それぞれ上から16mm 、28mmの焦点距離に当たります。
被写体にクローズアップしていきます。16mm、28mmそれぞれにあって、肌の質感、衣装の質感共に非常に緻密に解像していることがよく分かります。




曇りの天候では光の条件がフラットに見られがちですが、晴れの条件ほど明瞭な輝度差はないものの、周囲の環境、太陽の位置を丁寧に辿っていくことで被写体に当たる微細な輝度差を捉えることができます。
opera 16-28mm F2.8 FFは、その微細な輝度差を被写体の顔の両サイドから頬に至るまで見事なまでに捉え、きめ細やかで立体感のある描写をしています。広角レンズの焦点距離にあって、ここまでクローズアップしてもなおこの繊細な解像感をワイド端16mmからテレ端28mmまでコンスタントに発揮していることに非常に高い実用性を感じます。
焦点距離 16-28mm
opera 16-28mm F2.8 FFのズーム領域12mmは、前述した通りどの焦点距離にあっても確かなレスポンスを示してくれます。この性能を12mmという広角領域にあって十二分に使用できることは、様々なシーンで一役買ってくれそうです。例えば、スナップ撮影時の構図処理への対応もその1つです。


上記の2枚の写真のように、16mmで撮影した際、写真上部の枝の情報量が多いように感じられ、写真下部の手すりの映り込みも気になりました。そうしてその場を動かずにズーミングし、気になる構図部分への対応をしたものが28mmの写真となります。
その場を見て咄嗟にこういうフレーミングをして撮りたいと思い描いたイメージがあってもファインダーを覗いた瞬間に僅かなズレが生じてしまう場合、どの焦点距離でも迷いなく調節可能であることはとても心強いですよね。
また、テレ端28mm / F2.8が魅せる被写体の明瞭感と背景のヌケ感の描写性の美しさは、まるで単焦点レンズを使用しているかのように感じさせてくれました。
Photo Gallery

















まとめ
opera 16-28mm F2.8 FFの撮影は、当初普段あまり使用する機会が少ないレンズであったために使用後の感想としては、新しい、新鮮というワードが少なからず先行するのではないかというのが正直なところでした。もう少し噛み砕いてお伝えすると、普段使用頻度が多いレンズはズームレンズではなく単焦点レンズ、広角ではなく35mm〜85mmの焦点距離領域、絞りはF2.8よりはF1.4〜2.0、加えて、ポートレートだけでなくスナップ撮影も行ったこと、そうした撮影機会が少ないレンズ故の違和感的な新しい何かを得るのではないかと予測を立てていたわけです。しかしながら、今回本レンズを使用してみてopera 16-28mm F2.8 FFが提示した新しいは予想とは異なりました。
前述して来た通り、opera 16-28mm F2.8 FFは、ポートレート撮影で使用頻度が多い35mm〜85mmの焦点距離領域を使用する方に対しても、広角ポートレートに比較的スムーズにスケールできるという意味での新しいを提示しているレンズと言えます。この1本を持ち歩けばポートレート撮影に加えてスナップ撮影も楽しめ、贅沢なお散歩フォトも体感できるはずです。
今後のoperaシリーズへの期待
opera第1陣となったopera 50mm F1.4 FFは、「ニュートラルでありつつも独自性のあるレンズ」というコンセプトをoperaシリーズとして提示したわけですが、このopera 16-28mm F2.8 FFはそのコンセプトの系譜を踏みつつも、ニュートラルと独自性のバランスは一定なものではなく、独自性に比重が掛かることもあるという興奮極まりない提示をしたと言ってもいいのかもしれません。
結果としてopera 16-28mm F2.8 FFの出現は、operaシリーズがニュートラルと独自性を取り扱うレンズとして今後どのような相互のバランスを取ったレンズを出現させてくるのか、大いなる期待値を生み出すこととなったと言えます。今後のoperaシリーズにも目が離せません。