二度と無い「瞬間」を切り取る為の「状況」を作る。池谷友秀 | 写真家の機材

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写真家が作品を生み出す裏側を知りたい!写真からは見えない裏側をフォトグラファーならではの目線でフォーカスする「写真家の機材」第二弾!前回は「ぶっちゃけ機材ってカメラ以外いらなくない?」というような初回でのブチかまし具合でしたが、今回はどんな裏側が見られるのか、そしてこの企画は続けることができるのか…!機材の必要性と写真の関係性に迫ります。

インタビューさせて頂いたのは、ファッションや広告写真を中心に活動されている池谷友秀(@TomohideIkeya)氏です!

インタビュアーは前回同様、ヒーコのすーちゃん(@iamnildotcom)が伺っていきます。

Index

二度と無い「瞬間」を切り取る為の「状況」を作る。池谷友秀 | 写真家の機材

池谷 友秀

経歴

1974年生まれ
神奈川県小田原出身
2001 東京総合写真専門学校卒
2001 キャラッツにてアシスタント
2002 フリーカメラマンとして活動開始

池谷 友秀氏のHPはこちら

近年の実績

May.2016 “BREATH” 富山市ガラス美術館(富山)
Aug.2016 “WAVE” at LOWER AKIHABARA.(東京)
Nov.2016 “WAVE” at ギャラリー小暮.(NY)
 Jun.2017 “WAVE” at Micheko Galerie (ミュンヘン)
May.2018 “BREATH 2” at Micheko Galerie (ミュンヘン)
Jun.2018 “FINE LINE” sansiao Gallery HK(香港)

撮影機材

カメラ・レンズ

カメラ:PHASE ONE IQ3 100MP
水中撮影時によく使用するレンズ:Schneider Kreuznach 28mm LS f/4.5 Aspherical
他、レンズ数十種

ハウジングケース

ライト、アクセサリー、スタンド類、その他機材

broncolor製品:モノブロックストロボ、電源部、アンブレラ、リフレクター、HMI、延長コード
他:スタンド、クリップ類(大量)
補足:スタンド後ろにある車を、普段機材車として使用しているそう。

機材の使い分け

仕事と作品

[すーちゃん]

本日はよろしくお願いします!池谷さんといえば水中で撮影する作品イメージ(上記画像参照)が個人的に強かったのですが、聞くところによると、乃木坂46「ガールズルール」のジャケット写真や、スポーツブランド ARENA のWEB CMの動画でも水中で撮影されてるんですね!

乃木坂46「ガールズルール」のジャケット写真

※ソニーミュージック六本木ミュージアムにて「乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展」にて展示中。期間は2019年1月11日(金)~5月12日(日)。

スポーツブランド ARENA のWEB CM

[池谷]

うん、仕事と作品どちらも水中で撮っているね。

機材の使い分け

[すーちゃん]

仕事と作品の写真が、同じ人が撮ったとは思えない程の印象の差があるのですが、仕事と作品の機材は分けて違うものを使っているのでしょうか?

[池谷]

いや、ほとんど一緒かな。というより、仕事と同じ機材を使えるように作品撮影を何とか工夫したね。作品撮りで使用するための水中用ライトは持っているけど、メインではなくポイントで使ったり使わなかったりといった感じだし、やはり基本的には変わらないかな。

使い分けではないけど、水中撮影の場合は濡れたら絶対だめなもののガードを徹底してはいるね。感電が一番怖いから。

水中撮影で「感電」しないように気をつけている事

[すーちゃん]

感電は怖いですね…!!それを防ぐ為に、どんな物を使っているんですか?

(左:安全ブレーカー / 右:事故を防ぐためのケーブルカバー)

[池谷]

うん、一番大事なことは感電しないことだから、壁の大元のコンセントや照明類が水に触れていないかとか、感電漏電する要素を全て確認してから接続するよう徹底してる。どんな物を使っているかというと、レスキューテープ、ビニール袋、絶縁テープ、漏電遮断機、安全ブレーカーとか使って対策してるよ。あと、水とバッテリーをなるべく離したいか延長ケーブルも沢山使ってるかな(笑)

[すーちゃん]

水中撮影大変すぎます…。作品だけ見ていると、壮大な世界に見えますが、撮影現場は繊細でデリケートな準備が沢山あるんですね。

仕事と作品撮影で同じ機材を使う理由

[すーちゃん]

仕事と作品撮影では、同じ機材を使うと仰っていましたが、その理由はありますか?

[池谷]

仕事と同じ機材を使いたい理由は、仕事で使っているライトの出力が、自分の表現したい水中撮影でも必要不可欠だから。元々、水中撮影は10年くらいやってるけど、撮りはじめた当時のデジカメの性能だと、ISO200とかの世界だったから水中のような暗い場所は全く撮れなかったんだよね。なのでストロボの出力に頼るしかない。今だったらISOをもっと高くしても綺麗に撮れると思うけど。

また残念なことに、水中ライトは出力が低いんだよね。ブレずに泡を止めた写真を撮りたいと思ったら、仕事で使っている出力の高いライトを使う方法しかなかった(笑)

[すーちゃん]

じゅ、10年…!私が小学校に通っている時に、池谷さんはすでに水中作品を作られてたんですね。確かに、水の中は暗いでしょうし、それでいてISOが上げられないとなると、出力の高いライトが無いと何も映りませんね。たまたまそれが仕事で使っている機材だっただけという感じでしょうか。同じ機材を使っているというより、使わざるを得なかったんですね。

重宝している機材

[すーちゃん]

機材は全部大事だとは思うんですが、その中で作品を撮影する際には何が一番重宝していますか?

[池谷]

う〜ん…どれも同じくらい大事だけど…まずメイン機材ならカメラのPHASE ONE IQ3 100MP、あと水中撮影用のハウジングケースとか、Broncolorのライト、あとは黒布。

[すーちゃん]

なるほど!ハウジングケースって初めて見たのですが、ミニ潜水艦みたいですね!かっこいい!

ミニ潜水艦ぽくてかっこいいハウジングケース

黒布が大事な理由

黒布
[すーちゃん]

黒布はどんな用途で使っているんですか?

[池谷]

黒布は、背景の黒い部分です。背景が全部黒布なので、水中作品を撮影する時に必要不可欠で。具体的な使用方法は、黒布をプール全面に敷いて使っているんだけど…これがめちゃくちゃ大変で。色んな布を探してここ2~3年でやっとこれなら良いかなというものにたどり着いたよ(笑)

[すーちゃん]

あの背景は全部黒布だったんですか!!しかも、10年も水中撮影していてここ2~3年で発見できたって、かなり適合する布を探すのに苦労されていますね…。そんなにプールに使える布って少ないんですか?どんな黒布が理想なんでしょうか。

[池谷]

プールの水って塩素だから普通の水よりも布の色がどんどん落ちていっちゃうんだよね。背景布とか使ってみると、2~3回くらいでライトグレーかな?ってくらい色が落ちちゃう。しかも布は水を吸っちゃうから引き上げる時とっても重いし、中々乾かない。だから理想は、色が落ちなくて軽い布かな(笑)

しかも、プール幅の大きい布も売ってないから、生地をいくつも買って、衣装さんに縫い合わせてもらったりしてる。だいぶ今は撮影用にカスタマイズできてきたとは思うね。

[すーちゃん]

へ〜!!プールだと色抜けやすいんですね!生地からサイズまで、一から水中撮影に合うものを全部カスタマイズして作り上げる…作品撮影に対しての力の入れ具合が半端じゃない事が伝わります。自分だったら絶対心折れて妥協してる…。

機材の重要性

[すーちゃん]

作品を制作する上で機材の重要性はどのくらいでしょうか?

[池谷]

これは難しいね。機材がないと撮れないから重要性は相当高い。だけど主役ではない。主役はあくまでも被写体。だから機材はあくまでも道具なんだよね。でも、なかったら撮影は出来ないから名脇役ってところかな。

[すーちゃん]

名脇役!!絶妙な例え!とても納得がいきました。

[池谷]

そんなに自分は機材オタクでも無いし、自分が表現したい、やりたい事に見合っているものであればどんなカメラでも良いとは思うしね。

Phase Oneを使う理由

[すーちゃん]

ええ!でもめっちゃ良いカメラ使ってますよね?!

[池谷]

まあそれで言うと(笑)、自分がPhase Oneを使ってるのは大きく印刷するから解像度が必要ってところ。ただ、一億画素だとピントが合っているかどうかかなりシビアに見れちゃうからものすごく大変だけどね(笑)

[すーちゃん]

それ私じゃ絶対使いこなせない気しかないです…!その前に1mmも買えないですが(笑)

撮影で重要なことは「偶然性」

[すーちゃん]

何に一番重きを置いて撮影していますか?

[池谷]

自分がやる事は「状況を作ること」と「キャスティング」。状況以外はそんなに作らないね。

[すーちゃん]

状況以外というと、どういったものになりますか?

[池谷]

モデルに、右向けとか左向けとか言わないで、好きなように動いてもらってるね。こっちで全て計算したものだったら、絵や3Dの方が思い通り出来ると思ってて、カメラを使ったアートとなるとそれは、どれだけ偶然を入れられるかだと思ってるんだよね。「二度とその瞬間が無い」という要素をなるべく入れるようにしてる。

水中写真なら、泡なんて二度と同じ位置に同じ量が来たりなんてしないしね。陸で撮っていても、風を入れたりとか二度と再現不可能なものをやったりする。

[すーちゃん]

偶然性を一番大事にしているんですね

[池谷]

なんというか、偶然を入れられる状況をたくさん作っているという感じかな。完全に全てが偶然だと、それはまぐれでしかない。継続的にそれは作れないよね。計算された偶然が人を感動させると思う。計算だけでも、偶然だけでもない。偶然だけならネイチャー系が一番強いと思うね。自分はそうではなく、60%は作ってあとは委ねるみたいな感じ。ライトも実は固定じゃなくて、アシスタントに持って動かしてもらってるんだよね。というのもモデルも動くから、ちょうど良い位置にモデルの動きに合わせて動かしてもらってるわけ。その際に自分はアシスタントにモデルがこっちにきたらこう当ててというように事前に当てる位置だけ伝えておくだけ。

そうする事で意外性が生まれるんだよね。こんな感じになるのかって。同じようにまた撮ろうと思っても撮れない。だからいつも、何で同じようにならないんだろうって思うよ(笑)

水中の撮り方

[すーちゃん]

そもそもの話なのですが、一体どうやって水中撮影をおこなっているのでしょうか。写真を見ていても訳がわからなくて。

[池谷]

あ、それは水中で撮影してる動画があるよ。これを見れば一発でわかると思う。

水中ライブシューティング映像

“BREATH” Mimoza Koike & Ryuzo Shinomiya Director Cut CC_new from Tomohide Ikeya on Vimeo.

[すーちゃん]

すごい!!!

水中での呼吸はどうやって?

[すーちゃん]

そもそも池谷さんも潜っているんですね、驚きました。しかも結構長く潜ってますよね。呼吸は苦しくないんですか?

[池谷]

元々ダイビングやってたから、水の中は得意なんだよね。やってなかったら、水中でコントロールとれないから大変だね。

[すーちゃん]

なるほど!だからですか。でもなおかつ水中で同じ位置を保ちながら写真を撮るとか、ポセイドンじゃないと出来ないスキルでは。

水中でのピント合わせについて

[すーちゃん]

水中だとピント合わせも大変そうですが、どうやっているんでしょうか?

[池谷]

ハウジングケースに、ピント調節ができる部分があってそこを掴んで回す感じだよ。

ハウジングケース
[すーちゃん]

便利!と一瞬思いましたが、それでもやっぱり超大変ですね(汗)

作品はどうやって生まれるのか

[すーちゃん]

池谷さんは、「水中」と「テーマ」、どちらを先に決めて撮影をはじめましたか?

[池谷]

元は、水中で撮ろうと思ったのが先だね。「こんなの撮りたい」というのを色々試して、その中から続けられそう、いけそうっていうものからこういうテーマでいこうって決めて行く。そして、撮って行く中でまたちょっとずつしっかりとしたテーマに形成されていく。人それぞれだと思うけど、自分はまずノリを大事にしていくね。

[すーちゃん]

そうなんですね!明確なイメージを確立されている印象が作品から感じられるので、テーマが先行されていたのかと思っていたので意外です!池谷さんから「ノリ」という言葉が出てくるのも、作品からは想像できない言葉なので新鮮です(笑)

展示してはじめて、それが作品になる

[すーちゃん]

今は水中作品だけに突き詰めて撮っているのでしょうか?

[池谷]

いや、色々やってるよ。ただ、自分の中では「展示してはじめてそれが作品になる」と思っているんだよね。何というか、モニターの中だけだとそれはバーチャルだと思っていて、展示で現実に在るものになってはじめて作品と言えるかなと。だから、展示の方法とかが思いつかなくて発表していない、作品になっていないものが沢山ある。モニター上だけで見ることができる写真は、まだ作品に昇華できていないという感覚かな。プリントに納得がいったりすれば、いつか発表すると思う。

[すーちゃん]

なるほど…。今まであまりよく考えずに「作品」とSNSで見たものも展示で見たものも括っていましたが、そういった捉え方もあるんですね!確かに、実体となって作品と言えるというのはしっくりくる感じがします。

撮影の苦労と楽しさ

[すーちゃん]

池谷さんにとって、撮影は何が一番大変で、一番嬉しい瞬間などはどんな時でしょうか。

[池谷]

嬉しいというか…皆で作ってるのが楽しくて好きだね。いろんな人が撮影に関わるから、文化祭みたいな感じで。でも、準備と片付けは超嫌だ。何でこんなに面倒臭い事してるんだろうって思う(笑) 毎回早く終わりにしたいって思うけど終わらないんだよね。

[すーちゃん]

準備と片付け、超絶大変そうですもんね…!!やはりそこは嫌な部分なんですね。

撮り続ける理由

[すーちゃん]

ですが大変だったり面倒だったりしつつも、撮影が終わらないのは納得のいく一枚を追い求めるからこそでしょうか?

[池谷]

いや、撮影中にこれが良いとかってよくわからないんだよね。だから、納得のいく一枚なんて撮影時には決められない。さっき偶然を入れるって言ったけど、モデルには指示はせず、撮影のテーマだけ伝えるようにしていて、そうすると自分が思っても無い発想の動きとかをしたりするんだよね。解釈の違いというか。そういうのも面白いと思うんだけど、良いかどうかはわからなくて。

要はその状況が楽しいだけなんだよね。結構その状況を「ウケる」とか思ってたりするし。

[すーちゃん]

撮り始めると、楽しくて時間も忘れるという感じでしょうか。

撮ってから「良い写真」だと分かるまでの時間

[すーちゃん]

撮った時点では良いかどうか分からないとなると、良い写真だなという判断はいつするんですか?

[池谷]

撮ったその日はテンション上がってるからよく写真を見るんだけど、その後はものすごく寝かせるね。全く見なかったり。選別するのは一年後だったりもするかな。締め切りが決まらないと何もしないタイプだから(笑)

だから、展示が決まってから選び出すんだけど、そうすると撮影した直後は良いと思ってた写真がそんなでもないと思ったりするんだよね。撮影した直後って主観が強いから、よく撮れてるかどうかにばかり目がいってしまう。ピントが合っているとか、技術的なことばかり。それが一年後とかだと、フラットに見ることが出来るようになってるんだよね。だからその時が、良い写真だなって判断がつくようになってる頃かな。

[すーちゃん]

撮った直後は「作品的にどうか」というより「技術的に良いか」が先行しちゃうんですね!寝かせる作業の大事さが伺えます。

でも、展示というゴールがあるからこそ大変な撮影も継続されているように感じました。池谷さんの撮影された多くの写真群が、いつか作品になる日が待ち遠しいです!

作品ギャラリー

まとめ

  • 仕事と作品撮影の機材はほとんど一緒
  • 私の水中撮影には出力の高いライトが必要
  • 水中撮影時には感電に要注意
  • メイン機材の他に、黒布を重宝している
  • プールに合う黒布を探すのに8年くらいかかったらしい
  • 撮影において機材は、名脇役である
  • 私の作品の撮影で重要な事は「40%の偶然性」
  • 私がやる事は「状況を作る事」と「キャスティング」
  • モデルにはテーマだけを伝え指示は出さず、そこから生まれる意外性を大事にする
  • 色々撮ってはいるが、発表をしていないものだから作品とは呼べない
  • 写真は、展示してはじめてそれが作品に昇華される
  • 撮影の準備と片付けは地獄
  • 撮影はとても楽しい
  • ノリが大事
  • 撮影中は、撮っているものの良し悪しはわからない
  • 撮った写真を寝かせて、フラットに見ることができるようになった時が良い写真か判断できる

撮影機材一覧

使用カメラ

主な使用レンズ(作品制作)

他、ライティング機材

感想

今回インタビューを経て、池谷 友秀氏の写真作品から感じていた印象とは、良い意味で全く異なる制作話をお伺いできました!そもそもどうやって撮っているのかもお伺いする前は想像がつかなかったのですが、それは試行錯誤して編み出された状況と、導かれた偶然性の合わせ技だったとは、作品の深みの秘密を少し知ったような気持ちです。

そして、機材撮影させて頂くにあたり機材を置いている倉庫にお邪魔したのですが、なんだかこう、得体のわからない機械がいっぱいで工場みたいでした!!単管パイプってものが積み重なってたり(水中撮影でプール内に布を張りめぐらす際に使うものらしい)、撮影セットを作る用の施工する機械みたいなものが沢山あったり…!

とにかく桁違いです。作品も、撮影している池谷氏も半端ないです。作品の裏側では、「撮る」行為は一瞬だけで、膨大な準備がほとんどをしめているんだなと感じました。カメラ以外も極められてるなと…!半端じゃない熱量と、それでいて自分の写真に対してフラットな視点を持っているという印象でした。

池谷氏の写真展も近日開催されるとのこと!(詳しい情報は下記ご参照ください)写真が作品に昇華される瞬間…、これは見に行くしかありません。

展示情報

池谷友秀写真展「MOON」

2019年1月22日(火)〜2月3日(日)

池谷友秀写真展「MOON」

【日付】
2019年1月22日(火)〜2月3日(日) 展示室A 入場料500円

【会場】
ヴァニラ画廊 東京都中央区銀座8-10-7 東成ビルB2F TEL 03-5568-1233

池谷友秀写真展「MOON」

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