初めまして。カメラマンの小林修士(@ShujiKobayashiP)です。普段は人物を主に撮影しています。ヒーコの方々とはだいぶ以前から仲良くさせていただいておりましたが、このように記事を書くのは今回が初めてです笑 よろしくお願いします。
NiSiフィルター × Nissin MG10
日中シンクロポートレート撮影でNiSi角型フィルターとNissin MG10を使う理由
今回はヒーコのスタッフからNiSiのND(ニュートラル デンシティ)フィルターを使ってポートレート撮影をしてみませんかとのいう依頼をいただきました。元々、2011年頃から撮影を続けているRe-flectionという作品でフィルターはよく使っているのですが、ソフトフォーカスやクロスフィルターなど、光を滲ませたり反射させて画面上にその効果を反映させるものが多く、NDフィルターは使用した事がありませんでした。NDフィルターというと風景写真などではよく使われていますが、ポートレートの撮影においてはあまり馴染みのないフィルターです。
どのような作品を撮るか色々考えた結果Nissinのグリップ型ストロボMG10も一緒にお借りして屋外で日中シンクロ撮影をする事にしました。日中シンクロというとストロボの光を自然光よりも強めに当てて背景の露出を落とすという感じのドラマチックなポートレートが多いのですが、今回はNDフィルターと組み合わせる事で日中シンクロでありながら自然な感じの写真を目指してみました。
というのは先日ある仕事で屋外撮影をしたのですが、その時に美しい夕日の空だったにも関わらず被写体の明るさを適正露出にしようとした結果、背景の色が飛んでしまうという事がありました。日中シンクロをするか考えたのですが、背景がボケた上に自然な感じで空の色が出て、なおかつ被写体へは綺麗に光が当たっている状態にするには時間と機材的に難しく断念しなければなりませんでした。そこで今回はモデルさんに手伝ってもらい、背景の河原をロケーションにその撮影で実現できなかった方法をテストしてみました。
今回使用する機材
NiSi角型フィルター
今回試したような日中シンクロで使う方法以外にも長時間露光など、NDフィルターを使う事で通常では得られないような効果でポートレート撮影をする事ができます。作例通りな使い方をするのも一つの方法ではありますが、敢えて違う使い方をする事で新たな表現を生み出す事も可能かもしれません。なかでも角形のフィルターを使うことのメリットについては後述致します。
Nissin MG10
公式サイトよりスペック表をお借りしました。やはりこの中で僕が注目するのは多くのプロに愛されたMG8000(現在生産終了)と同じクオーツ発光管を2つ採用することにより連続で発光してもオーバーヒートしにくく、撮影を続けることができる高耐久な所です。今回の撮影でも連写するシーンがありましたが、ストロボが止まる事はなく、撮影に集中できました。機材に信頼がおけるというはとても大事なことで、仕事で使う機材を選ぶ際において重要なポイントの一つです。
日中シンクロを自然に見せる
フィルター、ストロボ不使用

まず始めにNDフィルターもストロボも使わずに撮影した写真がこれです。
雲によって太陽の光が多少柔らかくなっていたので写りはさほど悪くはありませんが、全体的に多少フラットな印象があります。また背景の空も露出が少しオーバーな感じで色が浅い感じです。
フィルター使用、ストロボ不使用

次の写真はハーフグラデーションNDフィルターを入れた状態でストロボを発光させないで撮影したものです。1枚目の写真と比べると解ると思うのですがフィルターの効果が画面上からスカートの下あたりまでにかかった事により画面上部が暗くなっています。これにより空の色が出てきましたがモデルさんの顔や上半身の露出も暗くなってしまいました。ちなみに撮影の最中に雲が移動したので多少露出が変わっています。
フィルター使用、ストロボ使用

次にNissinのストロボMG10にソフトボックスをつけてカメラ左側斜め上から、人物の胸あたりを狙って光を当てます。ハーフグラデーションNDフィルターを使った事で人物の上半身に当たる太陽の光が弱まった訳ですが、ストロボを太陽と同じ位置から当てる事でこの露出不足を補うというのがアイデアです。ただしストロボの位置が斜め上からなので足元にかけて露出が暗くなってしまうのですが、ハーフグラデーションNDフィルターの効果で画面下部の露出は落ちていない為に露出のバランスが取れるという訳です。人物はストロボの光が当たった事で陰影が出きて立体感が増した上に、色味がはっきりと出てとても印象がよくなりました。
NiSi ハーフグラデーションNDフィルターをポートレートで使うわけ
この撮影ではNiSiの角型フィルター 100mmシステム ハーフグラデーション Nano HARD IR GND4(0.6)というフィルターを使いました。
これは幅100mm長さ150mmのガラス製で、その名前の通りNDの効果がグラデーションを描きながら変化します。NiSiではその変化の仕方が違うものが4種類(ソフト・ミディアム・ハード・リバース)あるのですが、今回はその中の「ハード」というグラデーションの変化の幅が短いものを使いました。
角型のフィルターはあまり馴染みがないかもしれませんが、今回使用したフィルターのようにその効果が変化するものの場合、NiSiの100mmシステム V5 Alpha ホルダーを使う事でフィルターを回転させて角度やスライドさせて効果のかかる部分を変えることができるようになります。これは丸型のNDフィルターではできないものです。
僕も作品撮影で使うのは角型のフィルターが多くなっていますが、自分の好みに合わせて効果のかかる位置を変えることができるのでとても重宝しています。基本的にフィルターをスロットに差し込むだけなので交換も早いですし、スロットの数も複数あるので違う種類のフィルターを数枚同時に使うことができます。また100mmシステム V5 Alpha ホルダーに同梱されているアダプターリングは82mmで口径がとても大きいので広角レンズを使用する際にも画面がケラれる心配がありません。
ロケ撮影に最適なNissin MG10

次は人物に対して太陽の光が半逆光状態で当たっている状況にしました。
画面が白飛びしないような露出で撮影すると空の色は出るのですが、モデルさんの顔が影になり暗くなってしまいます。

しかし肌の色を良く見せようと露出をあげると背景が明るくなり、特に太陽側の空は白く飛んでしまって雲の境が判りにくくなりました。

ストロボの位置や照射角度は屋外での撮影の場合状況に合わせてこまめに調整する必要があります。しかしこのようにストロボをスタンドに設置してモデルよりも高い位置から当てるとなると、こまめな調整をするのが難しくなります。脚立を用意してストロボのある高さまで上がるのでは荷物が増えますし、調節のたびにスタンドを上げ下げするのは時間のロスであり、光が刻々と変わる屋外の撮影にとっては考慮しなければいけない事です。
NissinMG10はAir10sという高機能NASコマンダーはカメラからリモートでストロボを発光させるためだけではなく、カメラから移動せずに発光量などを手元でコントロールする事ができます。また1/1から最小1/256までを25段階1/3EVステップごとに光量調整可能なためこの撮影でも非常に役に立ちました。小型軽量でカメラにつけていても気になりませんし、使い方も簡単で一度ストロボとペアリングすれば次回からは何もせずにリモートでMG10をコントロールできるため現場ではすぐに撮影に取り掛かることができました。
NDフィルターを使用することで可能になる撮影
NDフィルターを使う事で得られる効果の一つは日中シンクロでありながら、絞りを開放近くで撮影できるという事です。
通常、日中シンクロではレンズシャッター式のカメラでない限り、ストロボが同調できるシャッタースピードに上限があり、それ以降の光量の調節は絞りもしくはISOを変える事で行うことになるわけですが、晴天の室外で撮影となるとISOでのコントロールが難しい場合もあり、必然的に絞りで調節する事になります。しかしそれは同時に被写界深度が深くなり背景がボケにくくなります。NDフィルターを使う事で絞りを変えずに露出を合わせることが可能になる訳です。
背景をぼかして人物に自然な光を当てるには

この写真では85mmレンズを使ってISO100 1/250 f5.6という露出で撮影しました。この写真も悪くはないのですが、今回は可能な限り背景をボカしてみようと思います。気になる点としては人物に当たっている光が少しフラットな感じなのでもうメリハリがある感じにしようと思いました。背景をもっとボカす為に絞りを開放に近づける為のやり方としてまず思いつくのはシャッタースピードを3段速くして(1/2000) その分絞りを開いて開放に近づけるという方法です。これにより確かに背景はボケますが人物に当たる光は変化がありません。
ストロボの光をフィルライトに使う場合

ここでストロボで光を加えることで人物に立体感を加えたいのですがシャッタースピードをストロボと同調可能な速度である1/250もしくは1/125にしなければなりません。3ストップ分のNDフィルターを使う事で絞りを開放近くに保ったまま、シャッタースピードを同調可能な速度に戻すことが可能となります。
この撮影ではNiSiの100mmシステム NDフィルター Nano iR ND8 (0.9) 100×100mmというフィルターを使いました。このフィルターはガラス製で透過度が非常に高いのでフィルターを入れることによるレンズの光学特性が損なわれることを気にする必要がありません。私が普段使っているフィルターは樹脂製のもので透過度が悪いわけではないのですが、NiSiのフィルターを見た時はその透明度の高さに驚いたほどでした。ちなみにこの写真ではストロボの光量は背景との露出を考慮してあくまでもフィルライト的に当てることで自然に見えるようにしました。考え方としてはメインライトは自然光で、そこに隠し味的に加えるということです。
ストロボの光をメインライトに使う場合

次にストロボが自然光を上回る光量でメインライトになった場合です。スタジオライティングのような光になり、背景との雰囲気が変わります。自然さは少し失われていますが、これはこれで肌の質感などを美しく表現できるので、撮影の意図に合わせて使い分ければ良いでしょう。
ちなみにライトの位置は髪の毛に当たっている太陽の光と同じようにするためにカメラすぐ横(少し斜め上から)に置きました。このライティングにおいてはストロボの光を当てる方向は撮影意図によって変化しますが、できる限り自然な感じにしたいのであれば自然光と同じ方向から当てるのがよいと思います。
Nissin MG10 でスポット的に光を当てる

NissinのMG10には簡単に取り外しのできるマグネットスライド式のズームカバーがついています。これはストロボの照射角度をコントロールするものなのですがカバー焦点距離が24~200mm(ワイドパネル使用時は16mm)と幅広い範囲で使うことができます。この写真ではそのズームを生かして顔のみにスポット的にライトを当てることで印象の強いポートレートを目指してみました。
まずストロボをカメラの右斜め上にセットしてモデルの顔にライトが当たるようにセットします。今までは太陽と同じ方向から当てていましたが、今回は印象を強くするために当てるのであえて逆側においてみました。ここからズームを使ってライトがモデルの顔のみに当たるように調整します。NissinのデジタルコマンダーAir10sは発光量だけではなく、このズームカバーをリモートで移動させて照射角度の設定をする事も可能です。このズームカバーが前後にスライドするのがなかなかカッコよく、ガジェットが好きな人はちょっとワクワクすると思います笑


スライドカバーが伸びる様子です。
過酷な撮影に応えてくれるMG10のパワー

先ほどまで撮影をしていた場所から少し移動をしてみました。河原の広い敷地に木が立っていたのでこれを背景に広角レンズを 使い、風景の中の人物という感じで撮影しました。このように広い画になると写り込みを避ける為にストロボの位置もモデルさんからだいぶ離れた場所に置かなくてはなりません。ここでもMG10のズームカバーで照射範囲を調節しモデルさんだけに光が当たるようにしました。ストロボがモデルさんからだいぶ離れていたので光量が足りるか心配でしたが、最大ガイドナンバー 80(165Ws)のMG10はこのような状況でもフルパワーで発光する必要もなく撮影できました。ここでもストロボを太陽光と同じように入れる事で自然光だけでは出ない不思議な雰囲気が出るようになります。
今回は光を柔らかくする為にソフトボックスやアンブレラを使用したのですがMG10はとてもパワフルなので光量が足りなくなるという心配は全くありませんでした。電源には単三電池を使用したのですが冬の屋外で4時間近く撮影していたのですが、最後の方になってようやくストロボのチャージが遅くなった程度で電池交換する事はありませんでした。予備のバッテリーを用意するか、もしくはリチウムイオン電池を使えばもっと長い時間での撮影も充分可能だと思います。
まとめ
今回使用した機材
フィルター
- NiSi Hard iR GND4 (0.6) 100×150mm
- NiSi Nano iR ND8 (0.9) 100×100mm
- NiSi V5 Alphaホルダー
ストロボ
- Nissin MG10
カメラ
- SONYα7RIIIL
レンズ
- Sonnar T* FE55MM F1.8 ZA
- FE85MM F1.4 GM
- FE 24-70mm F2.8 GM
ライティング機材
- Profoto RFi Softbox 3′ Octa
- Photek ソフトライターアンブレラ
今回、この記事を書くためにNiSiのフィルターとNissinのMG10ストロボを初めて使わせていただきました。どちらの製品も使いやすく、初めてでも撮影前に少し使えば、撮影現場でまるで以前から所有していたかのように使えると思います。性能や機能に関しては申し分なく、個人の作品撮影はもちろん、仕事の機材としても導入できるだけの精度と性能を充分に持っている製品だと思いました。