こんにちは!鈴木 啓太|urban(@urbansoul00)です。普段はオールドレンズやフィルムカメラ関連の撮影、執筆等をしております。
筆者の新刊「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」が5月31日に発売となることもあり、XICOにて執筆の機会をいただきました!ありがとうございます。
今回はその中から今が旬のオールドレンズを3本、そしてフィルム風の現像についても簡単にですがご紹介できればと思っております!
「オールドレンズを買ったけど、フレアやゴーストの出し方が分からない…!」「現像はどうすればいいの!?」などなど、この本があれば順光・逆光の作例に加え、レンズの使い方やRAW現像で写真をより良くする方法などがわかります。本書を読んだ方の写真のクオリティアップに貢献しつつ、オールドレンズを使った、デジタルとフィルムの橋渡しができればと考えております。
デジタルとフィルムをつなぐオールドレンズ活用方法
オールドレンズとは?
さて、オールドレンズでのポートレート撮影とはなんぞや?と言う方は、過去XICO記事で執筆しているものがありますので、先に過去の記事をご覧ください。
簡単に言ってしまうと、現代レンズにはあまり見られなくなった、フレア、ゴースト、ぐるぐるボケと言った「収差」が発生しやすいレンズを使い、それら描写を意図的に発生させることで、さまざまな表現を写真に取り入れようというものです。
勿論、収差だけではなく、低コントラスト、低彩度と言った現代レンズとは明らかに違う発色、描写も魅力のひとつ。オールドレンズの定義は様々ですが、ここでは「フィルムカメラ時代のレンズ」と定義して話を進めていきます。今回は40~50mm近辺のいわゆる標準レンズに焦点を当てオールドレンズの魅力をお伝えできればと思っております。では早速進めていきましょう!
標準域おすすめオールドレンズ3本
まずは定番の1本となりますが、こちらのレンズの紹介です。
Carl Zeiss Planar T* 50mm F1.4【YASHICA/CONTAXマウント】(中古市場価格帯:4~7万円)
カメラを嗜むユーザーの中でCarl Zeissは憧れのブランドのひとつなのではないでしょうか。その中でも、Planar(プラナー)は代表的なレンズのひとつ。Carl Zeiss のプラナーと言えばこのYASHICA/CONTAX(ヤシコン)マウントのプラナーを挙げる人も多いと考えます。
通称ヤシコンプラナーはオールドレンズユーザーに一目置かれるレンズで、1975年の発売から約50年近く経ってなお、フィルム、デジタルに関わらず特に若い写真家などから絶大な支持を得ています。プラナーにはフレアやゴーストと言ったオールドレンズ特有の描写は派手に現れませんが、透明感があるレンズです。当時のレンズとしてはコントラストが高く、F1.4が持つ繊細なボケと、レンズの持つブルートーンからくる清涼感が相まって、「透明」を体現したかの様な描写となります。
光が当たる部分が柔らかく飽和する「フレア」は特徴のひとつ。プラナーが持つ透明感に拍車をかけています。プラナーに憧れを抱くユーザーからは、この透き通った描写に惚れ込んで購入したという話を聞くほど。
このレンズを使って淡く幻想的に撮る方法を良く質問されますが、特に難しいことはなく絞り開放で極力ハイキーに撮ることがポイント。絞り羽の枚数が少なく、特定の絞りではボケの形が手裏剣状になるといった欠点があり、それを嫌ってか開放での作例が多く見られるのも特徴です。これにより、プラナーと言えば透明感のある写真、というイメージが世に溢れる様になったと考えています。
MINOLTA M-ROKKOR-QF 40mm F2【Leica Mマウント】(中古市場価格帯:4~7万円)
続いては名門MINOLTAのレンズ、ROKKOR(ロッコール)です。
全長2cmと言うコンパクトさからは想像し得ない性能を持つレンズで、虹のゴーストが魅力のレンズです。40mmと言う独特な画角からスナップにもポートレートにも使える万能レンズで、ファーストオールドレンズにも向いています。
本レンズは、LeicaとMINOLTAの業務提携・共同開発の末誕生した、いわばドリームレンズです。MINOLTAオールドレンズの描写はMCロッコールをはじめ、低コントラストでにじむタイプが多く、Leicaのオールドレンズ(特に大口径)は、こちらもやはりにじむレンズが多いという特徴があります。本レンズはと言うとにじみは多少みられるものの、どちらかと言うと1970年代、時代相応の十分なコントラストと解像力を持つ、比較的現代的な仕様となっています。
最大の特徴は虹のゴースト。Leicaオールドレンズで虹のゴーストが出るレンズとして有名なのはSummarit(ズマリット) 5cm F1.5がありますが、癖の強いレンズで状態も良いものが少ないなど玄人向け。
一方、本レンズは逆光でこそ虹のゴーストが出るものの、描写は素直で扱い易いもの。更に逆光下でコントラストが下がりにくいところも味噌で、RAW現像処理でコントラストや彩度の補正もしやすいのもおすすめできる理由のひとつ。近年ズマリットの高騰もあり、まだまだ狙い目と言えるMロッコール。レンジファインダーのレンズということもあり、ミラーレスカメラにつけてもコンパクトでビジュアルも良いのがまた憎いですね。
Leica SUMMILUX 50mm F1.4 【Leica L/Mマウント】(中古市場価格帯:20~30万円)
最後は、Leica SUMMILUX(ズミルックス) 50mm F1.4の第1世代です。
先述した2本のレンズと比べ、一気に価格が跳ね上がりますが、Leicaユーザーだけでなく多くのフォトグラファーが目指す憧れの1本として紹介させていただきます。
第1世代は1959~1961年のわずか2年、12,000本程度しか作られておらず、その中でもいくつかバリエーションが存在しています。1961年以後に発売された空気レンズを採用した第2世代は大きく解像度が上がるなど、世代によっても描写が異なる魅力的なレンズです。筆者は数多くのオールドレンズを使ってきていますが、その中でも3本の指に入るほど好きなレンズです。
ズミルックスの第1世代の特徴はにじみとフレア。同35㎜もにじみ玉として有名ですが、50mmの第1世代もややその傾向が強く、絞り開放ではハイライト部分が淡くにじんでいくのです。このにじみが、積もった雪が春の日差しで溶けていくかのように、キラキラと瑞々しい描写を見せます。F1.4から2にかけてはにじみ、F2.8以降は全体を取り巻くフレアも薄れ描写に芯が出てきます。にじみは見られなくなりますが、ボケと諧調のバランスが良いのはF4周辺で、ポートレートではF1.4~F4あたりを中心に使っていくのが良いでしょう。
ズミルックスの収差はある程度抑えられており、描写が大きく暴れることはありません。ゴーストも出ますが、大きく出るわけではないため、虹のゴーストと言った派手な効果を求めたいのであれば、先述したM-ROKKOR-QF 40mm F2をセレクトするのが良いでしょう。
みんなのギモン!オールドレンズで撮ったらフィルム風になるの?


今回発売になる「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」では、RAW現像にもフィーチャー。
RAW現像の基本ワークフローをはじめとし、作品としての1からの現像方法を余すところなく紹介しています。特にオールドレンズで撮影した写真は抜けの悪い、眠い描写になりがちです。それを本来の描写に近づくよう、抜けや発色をオールドレンズの描写を逸脱しない範囲で現像するテクニックを記載しています。しかも本書ではRAW現像ソフト(Adobe Lightroomを使用)が持つ各パラメータの意味と役割を細かく解説、現代レンズのRAW現像にも使えます。これからRAW現像を本気で学びたい!と言う人におすすめしたい内容です。
みなさんの中にはフィルム時代のオールドレンズで撮影すれば、写真もフィルムっぽくなるよね?と思っている方も多いかもしれません。実は、筆者もその口でした。オールドレンズは現代レンズと比べ彩度やコントラストは低いですが、フィルムの色、描写にはならず、残念ながら明らかにデジタルと分かる写真で出てきてしまいます。オールドレンズでフィルムの色に近づけたいのであれば、RAW現像で調整するしかありません。
本書ではその手助けになるよう、FUJICOLOR100、PRO400H、KodakGOLD200を模したRAW現像方法を余すところなく紹介しています。ここではサンプルとして、FUJICOLOR100のフィルムをベースにLightroomで現像した結果をお見せします。
デジタルデータのパラメータをコピーして、同じ光線状態の写真に当ててみたのがこちら。
どうですか?デジタルデータは現行バリバリのSONYα7Ⅳ+オールドレンズで撮影したものですが、結構フィルムっぽく見えるかと思います。フィルム風現像を行うには、フィルムの特性の理解が必須で、フィルム風現像をやりたくとも、それを理解していないとできない難しいものです。
更に、フィルムの保存状態、お店で使っている現像機メーカーの差異、スキャン時の設定など複雑な要素が多く非常に難解です。本書にはフィルム風現像の方法とそのヒントを色々と記載しましたので、是非参考にしてみてください。
まとめ
さて、いかがだったでしょうか。簡単にですが、オールドレンズの世界を垣間見ることができたかと思います。
本書では今回の記事では紹介していない、順光・逆光での効果的なオールドレンズの使い方、ストロボを使ったオールドレンズの使用方法、フィルム風現像のパラメータなども細かく解説しています。また、一部レンズについては前作と連動している部分もありますので、「ポートレートのためのオールドレンズ入門」で気に入ったレンズを見つけ、更に掘り下げたい場合「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」を読んでいただくのもおすすめです。勿論「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」を読んで、更にレンズの紹介、基礎的なオールドレンズ、アダプタの理解を深めたくなりましたら、前作を読んでいただければさらに楽しめるハズです。
本書により皆様の表現方法が広がり、写真が一層楽しくなるよう願っております。そのお手伝いができれば本を書いた意味もあるのかなと、そんなことを考えております。それではまたオールドレンズ、フィルムの記事でお会いしましょう!