カメラは目、機材は手足。高井 哲朗 | 写真家の機材

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広告写真家として第一線で活躍しながら、日本広告写真家協会(APA)副会長でもある、高井哲朗氏に機材と写真についての関係性をすーちゃん(@iamnildotcom)がインタビュー!いい写真を撮るには?広告写真と作品撮りの違いとは?気になるアレコレを全部伺ってきました!

カメラは目、機材は手足。高井 哲朗 | 写真家の機材

高井 哲朗

経歴

公益社団法人 日本広告写真家協会(APA)副会長
APAアワード 写真作品部門 審査員長
1978年 フリーとして活動
1986年 (株)高井写真研究所設立。現在広告写真を中心に活動中

受賞歴

1984年 第20回 広告部門 APA賞受賞 (Kodak E-6ポスター)
1987年 第29回 雑誌広告賞受賞(AMEX Gold Card) 第7回 ラハティ ポスタービエンナーレ 第1位(New Basics ポスター)
1988年 第22回 広告部門 APA賞受賞(Uyedaジュエリー雑誌広告)
1989年 第30回 クリオ賞 プリント部門受賞(ハワイアントロピカルポスター)U.S.A
1992年 第35回 The Newyork Festivals Finalist Award (Kodak雑誌広告)
2002年 第30回(社)日本広告写真家協会公募展 APA 奨励賞受賞
2003年 第31回(社)日本広告写真家協会公募展 APA 奨励賞受賞
2007年 第35回(社)日本広告写真家協会公募展 APA 奨励賞受賞

撮影機材

カメラ・レンズ

  • カメラ
    • Hasselblad
  • レンズ
    • HC MACRO 4/120 II

ライティング機材・フィルター

  • ライティング機材
    • ストロボ:broncolor製品
    • 電源部:broncolor製品
    • カラーフィルター

「機材」と「写真のクオリティ」の関係性

[すーちゃん]

こんなヒヨッコがお話を伺えるなんて恐縮です。本日はよろしくお願いいたします!
最初に気になる質問ですが、「機材」と「写真のクオリティ」に関係はあると思われますか?

[高井]

あるね。broncolor製品のライティング機材とHasselbladの組み合わせは最強。良いストロボは色温度が安定しているうえ、閃光時間を早めることができて、光をコントロールしやすい。broncolorはアクセサリー類が豊富なのも良いよ。とはいえ、どこでも使えるわけではないから、商品撮りの仕事はいつも自分のスタジオでする。完璧なライティングは自分のスタジオでしか出来ないからね。

カメラに関して言えば、Hasselbladは最後のCCD(イメージセンサー)で一番情報量(解像度)が入れやすい。少しアナログに近い、やわらかな描写も気に入ってる。近頃の新製品は、どれもデジタルって感じで描写がカリカリなんだよね。やわらかさは後から表現しづらいけど、硬さは現像で出せる。だから、最初の写真はやわらかいほうがいい

[すーちゃん]

勝手ながら、物撮りの方はカリカリした描写が好きだと思っていました。高井さんはやわらかさの表現も大事にしているのですね。broncolorのライティング機材をお使いの理由にも納得です。

いい写真の基準

[すーちゃん]

自分にとっての「いい写真の基準」を教えていただけますか。

[高井]

ドキドキ、ワクワクが蘇ってくる、それが一番いい写真だなあ。写真を見た瞬間に、撮っている時に目に浮かんでいた世界があって、それがバッと蘇ってくるもの。

[高井]

例えば、このりんごの写真を見ると「ここにトム・ソーヤーがいた」って思い出す。りんごを水の中に浮かべると、僕の頭の中でトム・ソーヤになっていかだに乗り、暗闇の中で冒険していく。目の前のリンゴは、アナザーワールドへの入り口になる。撮影しながら、頭の中では冒険が繰り広げられてるんだ。他の人で言えば、あきりん(@crypingraphy)の人物写真なんかは、おふざけな感じながらロマンチックで、エロチックなスパイスが効いてる。別所さん(@TakahiroBessho)の飛行機の写真を見ると、浮遊感を味わえる。写真を入り口にして、物語に入っていける。
他にも、iPhoneで撮ったピンクの薔薇からでも、葛飾北斎とか浮世絵の世界にも入っていける。そういった、色んな世界に行ける写真がいい写真だなって思うね。

[すーちゃん]

高井さんにとって写真は、撮るにも見るにも、自分をわくわくする別の世界に連れて行ってくれるものなんですね。

いい写真の撮り方

[すーちゃん]

いい写真はどうやったら撮れますか?

[高井]

被写体に対するたっぷりの愛情だと思うよ。感謝の気持ち。感謝して、喜びのある写真を撮ることが一番だと思う。撮るうえで見せたいものがあれば、見せたいものに集中して、そのものと対話する。人間じゃなくても、商品や風景とだって、コミュニケーションを取れる。気持ちのいい瞬間はすぐ過ぎ去ってしまうから、それを記憶にとどめたいって感情でシャッターを切っているよ。とにかくなんにでも感情移入して、ものとお話しながら撮影しているかな。

ものの声が聞こえる

[すーちゃん]

ものとお話するというのは、声が聞こえるんですか?

[高井]

そうだね。撮っていると「こういう風だといいな」とものが言ってくる。その「もの」を作ってる人の想いなのかもしれないね。ものの形、カーブやバランス。そういうものと対話するわけ。どの辺りに配置して、どれだけの分量で、「もの」と「もの」をどう対話させるかって。リップグロスが2つあったら恋人同士だからくっつけるとか、要は自分の頭の中の話なんだけれど、その「もの」が主人公になって物語が生まれていくんだよ。

[すーちゃん]

鋭い観察眼とあふれる感受性が、フュージョンしていますね! 精密な物撮りは、すべて計算に沿って撮られているという勝手なイメージがありましたが、高井さんのお話を伺って印象が180度ひっくり返されました。

機材の声が聞こえる?

[すーちゃん]

ちなみに、機材の声も聞こえるのでしょうか?

[高井]

機材は、僕の手足だね。被写体であるものが、「この機材を使って」って要望してくる。だから「これが欲しいのね」って感じで差し出すわけ。昔は機材に「ようこちゃん」とか、「じゅんこちゃん」とか名前を付けていたこともあるよ。買い替えもしなくて、使わなくなったらそのまま寝ててもらうって感覚。といっても、アナログの時のカメラもそのまま使っているんだけどね。

[すーちゃん]

名前ですか。ものすごい愛着ですね!

今の撮影スタイル・機材にたどり着いた経緯

[すーちゃん]

高井さんが今の撮影スタイル・機材に落ち着いたのはいつ頃ですか?

[高井]

基本的なスタイルは変わらない。35年前に購入したbroncolorのライトだって、最近になって壊れるまではずっと現役で使っていたんだ。出発は500円のカメラ。それから借りたカメラも使ってみて、35mmのフィルムカメラ、Hasselbladの6×6判カメラ、シノゴ(4×5インチの大判カメラ)、バイテン(8×10インチ)と使ってきた。デジタル時代になって、今度はデジタルバック(フィルムカメラをデジタル化させるオプションユニット)でHasselblad、今使ってるのシノゴにもデジタルバックをくっつけてる。

[すーちゃん]

35年前に買ったライトを最近まで使われていたとは、随分長持ちですね。デジタルバックというものがあるのは、初めて知りました。完全にデジタルに移行したわけではなかったんですね。

広告写真と作品撮りの違い

[すーちゃん]

「広告写真」と「作品撮り」の違いってなんでしょうか?

[高井]

そんなに違いはないよ。表現に制限があるか無いかだけ。どちらも同じくらい楽しいよ。そもそも僕は撮る事が好きだから、撮れるならなんでもいいんだ。

[すーちゃん]

自分の中に撮影の垣根がないんですね。クライアントワークでも、作品でも、創造するスタンスは変わらないと。高井さんのクリエイティビティの高さを感じます。

創造力と探究心

[すーちゃん]

仕事でも「高井さんの創造力にお任せで」といったオーダーも多いのかなと思います。実際はいかがでしょうか?

[高井]

うん、まさに最初の仕事がそれだったね。自分の作品が、仕事に繋がったんだ。「光で絵を描く」ことをテーマにした作品を、Kodakの担当者に持って行ったのがきっかけだった。ちょうど「what’s next」ってキャンペーンを打ち出す前で、タイミングよく使ってもらえた。当時のKodakはCCDを研究していて、ちょうどアナログからデジタルへと変わって行く時代だった。その中で僕はフィルムでまだまだこんな事ができる、と言うチャレンジを沢山やったんだよね。

[高井]

キャンペーンで1年間、ポスター撮影をやらせてもらった。もうちょっとやりたくなって、「日本画風のタッチでもう一年キャンペーンポスターをやらせてほしい」ってプレゼンテーションをしたんだ。計2年間で12枚ポスターを撮影したよ。富士山の写真を版画っぽく仕上げたくて、版木を作るようにフィルムを重ねて、光とフィルターで色をつけていく作業をしてみたりもした。

[すーちゃん]

すごい発想です。さながら光の魔術師ですね!

写真は光で描くもの

[すーちゃん]

先ほど仰られた、「光で絵を描く」というのはどういった意味なのでしょうか?

[高井]

日本だと写真は「真(真実)を写す」っていうけど、そういう日本的解釈は、はじめから僕の中にはなかった。そもそもは、小学生の時にはじめて作った日光写真で「光で絵を描けるって、すげー!魔法じゃん」っていう感動から、僕の写真は始まったんだ。そのときから、光で絵を描くってことを、自然と意識してやってきた。

それこそ日本の初期の写真家は、森山大道、木村伊兵衛のように、現実を写し取るのが主流だったわけだ。ヨーロッパの方だと写真は「photograph(フォトグラフ)」と言って光で描かれたものを意味するんだよね。「光の鉛筆」とも言うかな。

[すーちゃん]

小学生のときに触った日光写真の感動を出発点にして、そこからずっと写真に向き合ってこられたんですね。

創造力の源

[すーちゃん]

高井さんの発想力というか、創造力はどこからきているのでしょうか?

[高井]

本の影響はあるかもしれないな。小学生の時、1~2ヶ月くらい入院したんだけどね。盲腸で、もうちょっとで、死ぬとこだった。することもなく、ずっと絵本を読んでいたんだ。絵本には、絵と文字だけだよね。たかが単語の組み合わせのはずが、そこから世界が広がっていったんだ。文字が世界を作ってくれたんだね。高校生のときには、授業も聞かずに純文学やアメリカ文学をずっと読み漁っていたよ。写真を撮るという行為をきっかけに、写真でリアルを撮りながら、自分の頭の中で物語が始まるようになっていってフィクションの世界とリアルを行き来できるようになった。ピーターパンの感覚だよね、どこへだって行けるんだ!って。

[すーちゃん]

おもしろいです。いろんな物語が目の前の光景とつながって、他の人が思いつかないような作品に仕上がっていくのでしょうね。高井さんの頭の中を覗いたら、ものすごい事になっていそうです!

フィルムからデジタルへ

[すーちゃん]

フィルムからデジタルに移った中で、変化はありましたか?

[高井]

デジタルカメラになってから、いわゆるフィルムのグラデーションがしばらく出なくなった。しばらくというか、今でも出てないと思うんだけど。あ、それで言うと普通のデジタルカメラより、iPhoneの方が感情に素直な写真が撮れて、僕は好きかな

[すーちゃん]

え!あんなにガチガチの広告撮影をしているのに、iPhoneで撮っている方が好きなんですか!

iPhoneで撮るのが好きな理由

[高井]

iPhoneは情感を入れやすいんだよ。広告撮影みたいにガチガチなのはデジタルカメラで撮るけど、ロマンチックに撮りたい時は断然iPhone。普通のデジタルカメラでも撮れるんだけど、それだとちゃんと写るだけになる。iPhoneとのデートはロマンチックだよ。写真はポエムになっていく。

[すーちゃん]

すてきですね。高井さんの思考の柔軟さが伺えます。

オススメの写真加工アプリ

[高井]

あと、写真加工アプリで「Snapseed」ってものがあって、とても便利だよ。何といっても、色が変えやすい。結局、写真って色が大事だと思うから。自分がアナログ(フィルム)でやっていた色の使い方が、このアプリでも付けれられるの。鮮やかにすることもできるし、くすんだ表現もできるし、ぼかしたりも出来るし。光で絵を描くことが、アプリで出来ちゃうの

[すーちゃん]

早速使ってみます。と言ってもあまりiPhoneで写真を撮っていないので、まずは撮るところから始めてみます!

最近の撮りたいもの

[すーちゃん]

最近これが撮りたい!というものはありますか?

[高井]

遊びの一環だと、人の感情をうまく撮れるといいなと思ってる。闇とか憎悪じゃなくて、人の気持ちのいい感情をうまく撮れたらなって。最近、人の沸き起こる感情が面白いなと思っていて、それって顔になるのかな? と思って顔を撮ったりしているよ。
あとは、空や花も綺麗だったら撮るし、バナナを食べたいと思ったら撮るし、素直な感情そのままに撮りたいものを撮っているね。こう考えると、僕の人生行き当たりばったりかもしれないなあ。

[すーちゃん]

直感のおもむくままにシャッターを切っているんですね。

服装へのこだわり

[すーちゃん]

私の中で高井さんはファッショニスタな印象があるんですが、服装にはこだわっていますか?

[高井]

どうなんだろう、喋るのが苦手だから、洋服で存在感を匂わしているのかも。花柄、ヘビ柄、迷彩柄が多いかなあ。カラフルなものも好きだよ。ファッションで言うと、30年前からずっと髪の毛にブリーチかけてるね。おかげで髪の毛が少なくなっちゃった。

[すーちゃん]

ブリーチ30年もかけてそんなに髪の毛あるんですか!?女の子でも結構スカスカになっちゃう子がいるのに驚きました。

今一番興味がある事

[すーちゃん]

最後に、今一番興味があることはなんですか?

[高井]

今面白いのは「note」だね。Instagramで詩を載せていたら、あきりんにnoteに載せたほうが絶対にいいって言われて。あきりんには詩じゃなくてポエムって言われてるんだけど。非常にダサイ文章から真面目なものまで、色々入れてるね。

[すーちゃん]

実は読んでます。感覚的でまっすぐな言葉を紡がれている印象です。写真以外に詩でも表現をされるのですね。

作品ギャラリー

撮影機材一覧

使用カメラ

  • Hasselblad製品
  • 大判カメラ(4×5インチ)
  • 大判カメラ(8×10インチ)

使用レンズ

他、撮影機材

まとめ

  • 最初の写真はやわらかいほうがいい
  • 色んな世界に行ける写真がいい写真
  • 感情移入して、ものとコミュニケーションする
  • 被写体に対するたっぷりの愛情がいい写真につながる
  • 撮影するときは物語を作る
  • 機材は手足
  • 撮影の基本スタイルは変わらない
  • 写真は光を描くこと
  • iPhoneの方が感情に素直な写真が撮れる
  • ロマンチックで撮りたいときはiPhoneで
  • 写真加工アプリでSnapseedがおすすめ
  • 人の感情をうまく撮りたい

光で絵を描くことと、遊びの感覚

高井さんにお話を伺っていて感じたのが、この方は心の底から写真が好きなんだな、ということ。機材について伺った質問でも「機材は手足」だとして、道具でありながらも道具ではない感覚で扱っていることを教えていただきました。他にも、物撮りをするときには、主人公となる「もの」と対話をして、光の当て方や構図を決める。写真から物語を、物語から写真をつくる、というお話もありました。

写真の話をされる高井さんは快活で、子供のころから今までずっと、「光で絵を描く」という「遊び」を真剣に続けてきた光景が鮮明に想像できました。

数々の広告写真を手がける物撮りのプロであり、APAの副会長も務める高井さん。その中身は、ひたすら真摯に写真に向きあい、写真を撮るためのすべての要素に向き合い、実験のようにあたらしいことにチャレンジする。楽しむという能力がずば抜けて高い、子供心をもった大人の方でした。言葉でまとめてみましたが、今回、言葉にはならない、なにかとても大事なものを教わった気がします。

おまけ

このインタビューでは高井さんのスタジオへお邪魔したのですが、ご飯やバナナやお菓子を頂き、モグつきながら進行させて頂きました!ごちそうさまでした!!

高井さんはちょくちょくご自身のスタジオである、高井写真研究所にて、定期的に『東京写真研究倶楽部』を開催されているそうです。実は私もたまに遊びに行っているのですが、写真をやってなくても誰でもカモンな自由な会なので、興味のある方は覗きに行っても楽しいかもしれません!

高井写真研究所のサイトはこちら

高井写真研究所

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高井哲朗 note

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