観察・収集としての写真 空き地研究

はじめまして、空き地研究を行っている Hiraku Ozawa(@Hi_Ozawa)と申します。

私は身の回りにある様々な空き地を訪れ、それらを写真で記録しながら空き地の性格や魅力などについて研究しており、この記事ではフィールドワーク時の記録撮影の例として、私の研究の一部をご紹介します。

観察・収集としての写真 空き地研究

空き地研究のきっかけ

子供の頃暮らしていた家の近くに雑草が生えたまま放っておかれている空き地があり、私はよく一人でその空き地に入り、草花、虫、水たまりなどを眺めたりして遊ぶことが好きでした。一人で過ごす空き地には独特のゆっくりとした時間が流れていて、それは他の場所には感じられない魅力でした。

この頃の経験がもとになり、大人になってから空き地の魅力を改めて探りたいと思うようになり、空き地研究を始めました。

空き地とは

私たちの周りには様々な「空いている土地」があります。

住宅や店などの開発予定地、使われなくなった資材置き場、「デッドスペース」と呼ばれる無用の土地、みんなが利用できる公開空地やオープンスペースなどなど…。
これらの建物が建っていない土地や、使われていない土地のことをまとめて「空き地」と呼び、研究の対象にしています。

空き地研究の面白さと意義

空き地研究のフィールドワークでは、面白い姿の空き地に偶然出会うことが多いです。また、一見したところ何の変哲もない空き地でも、観察を深めることで新たな魅力を発見することがあります。

また、空き地の観察を通して、その街に住む人々の営み、過去や現在の街のあり様などを窺い知ることもあります。私はこの研究がきっかけで、街の景色が少しずつ移り変わる様子や、街の中を流れる時間について敏感に意識するようになりました。

このように、自分自身の風景の見方や時間の感覚が変化していくこと。そして、空き地以外の成り立ちがわからない不思議なものに偶然出会えることも、この研究の面白さだと感じています。今回は空き地研究のフィールドワークで見つけた不思議な空き地と、街にある不思議なものをいくつかご紹介していきます。

空き地研究「街で見つけた不思議な空き地」

棲み分け

棲み分けとは、隣り合う2区画以上の空き地において、区画ごとに生えている植物の種類が大きく異なる土地のことです。これが生まれる要因としては、区画ごとに造成された時期や管理方法などが異なるといった人為的なものが考えられます。また、土質や日照などの自然条件が関係するケースもあるでしょう。

これは住宅街で見つけた不思議な空き地です。

一見したところ何の変哲もない空き地に見えますが、よく見ると生えている植物の種類が左右の区画できれいに分かれています。

写真左:右側の区画、写真右:左側の区画

右側の区画は、一面が笹らしき植物に覆われている一方で、左側の区画には様々な種類の植物が生えています。

左側の区画に密生している植物の種類は分かりませんが、大きめの丸い葉の植物と、ニョキニョキと茎を伸ばす植物が目を引きます。

それにしても、なぜ区画ごとに植生がはっきりと分かれているのか気になる方も多いのではないでしょうか。この違いが自然に生まれたとは、とても考えづらく、結論を出せずにいましたが、1年後に再訪した際、その謎を解くヒントを見つけることができました。

これが約1年経過した空き地の様子です。

このように右の区画はきれいに笹が刈り取られています。

一方、左側の区画は草が生い茂ったままです。

この様子から、左右の区画で管理者が異なることが推測できます。つまり、両者の管理方法の違いにより、このような植生の差が生み出されたのではないでしょうか。
このことについて、具体的に次の2つのケースを考えてみました。

ケース①
両区画が造成されたあと、右の区画に笹らしき植物が自然に根付き、やがて敷地内を占拠してしまった。一方左の区画の管理者は、それが侵入してこないようにこれまで常に気を配ってきた。
ケース②
笹らしき植物は、もともと両方の区画にまたがって生えていたが、ある時、左の区画の管理者は畑などをつくるためにそれを取り除いた。

笹は繁殖力が強く駆除が困難な植物なので、このことを中心に2つのケースを推測してみました。もちろん、このほかに何か意外な要因があるのかもしれません。はたして、本当の経緯はどのようなものだったのでしょうか。

畑の丘

畑の丘とは、畑の中にできた丘状の土地のことで、長い間人の手が入っている様子が見られず原野化しているものです。もともとは何かの工事で出た残土置き場と考えられます。

広い畑の真ん中に、不思議な丘が築かれていました。

上の写真は丘を正面から見た様子で、大きさは横幅40m、奥行30m、高さ6mくらいあるでしょうか。

これが昨年(2020年)発見した際の様子です。

そして、ほぼ同じ位置・時期に撮影した姿です。昨年の時点で丘全体は植物に覆われていましたが、この一年で緑のボリュームが増していることがわかります。

同じく、別角度から見た昨年の様子です。

そして、画角は異なりますが、ほぼ同じ位置から撮影した今年の様子です。

畑に浮かぶ島のような姿が魅力的です。

それにしても、一体どのような経緯でこの丘はできたのでしょうか。

はじめは貝塚や古墳などの遺跡かもしれないと考えましたが、当地域の歴史資料館などをあたってみても該当する情報は得られませんでした。

おそらくこの丘は、周囲の農地を開墾した際に出た残土を集めてできたものだと考えられます。あるいは、他の場所で何かを開発し、その際に出た不要な土砂などを置いたものかもしれません。

いずれにしても、ここは有効利用できない土地として取り残されているようです。形状は丘ですが、このようなデッドスペースも私の研究では「空き地」として扱っています。

そして、この丘の魅力は、人の手が行き届いた土地の中に、人の手が入っていない(ように見える)領域が存在することです。この関係を見ると、この丘があたかも禁足の聖域に思えてきます。

丘の中には、自然に根付いたと思しき樹木がいくつも立っていました。

これからこの丘はどのような姿に変わっていくのでしょうか。木々が成長し、やがて鎮守の森のようなものができることを密かに期待しています。

空き地研究「街で見つけた不思議なもの」

不思議な土くれ

不思議な土くれとは、畑にある用途や成り立ちがわからない土の塊のことです。これは畑を耕した際に出た残土の塊、畑で使う予定の堆肥の塊などと推測できますが、詳細は不明です。

先ほどは畑にできた丘を紹介しましたが、この畑には奇妙な土くれが置かれていました。

これが何なのか、ひょっとしたら農業に詳しい方ならわかるかもしれませんが、私はこういうものを初めて見ました。

一見したところ、畑の表土を整える際に出た不要な土に思えますが、いくらか土が固まっている点が気になります。あたかも、トラックなどで他の場所から塊のまま運び入れたかのようです。

いずれにしても、野の草花が生えた姿は一つの園芸作品のようで魅力的です。

もう一つの土くれも味わい深い姿をしています。

断面に露出した土の表情と、上部に連なって生える草花の対比が魅力的です。

勝手な想像ですが、これらの土くれは生まれてから数ヶ月〜1年くらいしか経っていないのではないでしょうか。この土くれは、もう少し月日が経つと形は崩れ、この面白い姿はなくなってしまうことでしょう。

一年後、様子が気になって再訪したのですが、このようにすっかり以前の面影はなくなっていました。

あの魅力的な土くれは、ごく限られた期間にだけ姿を見せてくれていたようです。

残滓(ざんし)

残滓(ざんし)とは、以前あった建物や施設などが解体され、そのごく一部分だけが取り残されたもののことです。取り残された後も何らかの機能を持っているケースや、無用の長物になっているケースがあります。

この不思議な構造物は、この近くの空き地を撮影した帰り道に発見したもので、数種類の塀のブロックで構成されており、あたかも現実世界に現れたコンピューターバグのようです。

なお、左側の敷地には閉店した飲食店・塀の上の敷地には会社の事業所があり、この不思議な構造物は左の飲食店がつくられる以前にあった建物などの痕跡だと推測できます。おそらく、そこには住宅や事業所などがあり、その外壁や外構の一部がこうして残されてしまったのでしょう。

取り残されたものの姿は何とも言えず魅力的です。これらの部分につながる全体像は、いったいどのようなものだったのでしょうか。

この構造物が残された理由について考える際、この小さなスペースがヒントになりそうです。おそらく、ここには排水マスや水道メーターボックスなどが設けられていたと考えられます。つまり、それらが将来再利用されることを想定して、このスペースが残されたと推測できます。

数ヶ月後、再び様子を見に来てみました。

もしこの場所に水道メーターなどがあるとすれば、ひょっとしたら現在も使われているかもしれないと思ったからです。しかし、このとおり人の手が入った形跡は見られず、完全に”遺構”として存在していました。

小さなスペース内には雑草が根を張っています。土が溜まるほど長期間放置されているようで、またブロックの段々には雑草が伸び、専用の花壇になっていました。

なお、不思議な構造物のすぐ隣(飲食店側の敷地)にはコンクリートの斜面があります。おそらく、ここにもかつては外構や何らかの施設があり、その後、飲食店をつくる過程でそれらは解体され、このように塗り潰されてしまったのでしょう。

離れて見たこの場所の様子になります。

歩道沿いにさりげなくあるので、つい気付かずに通り過ぎてしまいそうです。このような不思議な痕跡は、実は街の様々な場所にあって、皆それに気づかないだけかもしれません。注意しながら歩いていれば、読者の方もきっと見つけられると思います。

まとめ

この記事では、街で見つけた不思議な空き地と、不思議なものについてご紹介しました。

これらはただ眺めるだけでも楽しいですが、その成り立ちを探ったり、未来の姿を想像したりすることで、また違った魅力が見えてきます。

また、私の普段の研究では、身の回りにある様々な空き地を性格別に分類しています。そして、空き地の魅力はそれらの性格にもあると感じています。

これからも街の空き地の姿を記録しつつ、それらの価値や魅力を探っていきたいと思います。この記事を通して、空き地研究や路上観察の面白さを少しでも感じていただけたら幸いです。

空き地研究氏の作品をもっと見たい方はこちら!

空き地図鑑

スマホでの撮影をもっと楽しくするためのプリセット

ジョニー( johnny777 )氏による『無限の可能性を引き出す Lightroom プリセット』がヒコマートで発売中。

iPhoneから始まったこれまでの写真活動で撮り続けてきた、膨大な数の写真で検証に検証を重ねて作り出した、こだわりのプリセット。

仕事でもプライベートでも恐れず使える、そんな高い汎用性、アレンジの可能性を持つ自信作のプリセットです。

※本商品は、Hiraku Ozawa氏によるプリセットではありません。

空き地図鑑 Instagram

合わせて読みたい!

スナップ写真をより楽しく!日常を”収集”しながらスキルアップするためのヒント

Pocket
LINEで送る

0 replies on “観察・収集としての写真 空き地研究”