和紙に惚れ込んで研究を始めてからはや半世紀‥‥すいません、嘘つきました。まだ6年くらいですこんにちは写真家の長瀬正太(@syouta0002)です(汗)今回は普段から個展などで非常に質問の多かった阿波和紙について書かせて頂きます。写真印刷に和紙を使うことのメリットやデメリット、さらにその魅力について実体験を交えて熱く語ります!
写真を和紙に印刷して新しい表現方法を手に入れよう
さて、大好きな和紙のお話なのでずずずいっと気合い入れていきましょう。
阿波和紙とは
私が使用している和紙は四国は徳島県の阿波和紙(あわわし)というものです。あの阿波踊りの阿波ですね。詳しく調べてみたら自分で漉けそうな勢いで情報が出てきたのでこちらもご参照下さい。
AIJP
さらに阿波和紙の中でも私は「アワガミファクトリー」という和紙会社より販売されておりますアワガミインクジェットペーパー(以下、AIJP)を使用しております。アワガミファクトリーでは襖紙やプリント以外の用途での様々な和紙を販売なさっていますがAIJPは特に一般的なインクジェットプリンター用に開発された和紙のシリーズです。
※AIJPシリーズ通販販売サイトはこちら。
特色
AIJPの特色と言えばその厚みと紙面のコーティング加工だと思います。
書道で使うような薄い和紙の場合インクジェットプリンターの中でクシャクシャになり詰まりやすいのです。ですのでAIJPはプリンター用紙と同じような適度な厚みを持たせてくれています。(分厚すぎてプリンターによってはギリギリ通るか通らないかというような製品もありますが(汗)
また、何の加工もされていない和紙ですとインクがじわ~っと滲んでしまうことがほとんどです。ですがAIJPには和紙表面に滲み止め加工がなされていて滲みません。この加工のお陰で写真の繊細な解像感やシャープな枠線までしっかりと印刷する事が出来ます。
※和紙印刷の一部アップ。雲や枝の描写や枠線がしっかりと印刷されているのが分かります。
AIJPのデメリット
先述したAIJPの特色とは別に、まずはAIJPのデメリットをお伝えします。誰かが良いことを伝えてから悪いことを伝えるよりも悪いことから伝えたほうが印象が良いって言ってたので(笑) これらは私が実際にAIJPを使用して感じたものです。
紙粉が出る
勘違いしないで頂きたいのですが、これは通常の和紙よりも紙の粉が出るということではなく量販店で販売されている写真用紙などと比べるとやはりわずかに紙粉が出てくる。という意味です。ですので私の場合は印刷前にブロアーにてAIJP表面の紙粉を出来る限り飛ばしてから印刷しています。それでも徐々にプリンター内に紙粉が溜まっていくので数年に1回の割合でプリンター製造会社へのメンテナンス(庫内清掃)に出すことをお薦めします。
※ボッシュボッシュと紙粉飛ばし中。手でこすると逆に毛羽立ったりするのでブロアー推奨です。
黒が締まりにくい
これはマット紙やファインアートペーパーなどに印刷したことがある方は「ですよねー。」と赤べこの如く頷くと思うのですが、反射が強く輝くような光沢が特徴の写真用光沢紙と比べて印刷の黒が締まりにくいです。滲んでしまうような和紙と比べれば段違いに締まるのですが私の場合は印刷時にPhotoshopのトーンカーブなどで補正します。ただ「光沢紙に印刷した写真と並べて展示する」といったことでもない限りそれほど気にはならないかなと。
AIJPのメリット
次にAIJPのメリットについて熱く語ります。私が写真の印刷になぜAIJPを使用するのか?ということでもあります。
質感
AIJPを使用するとやや黄色味がかった紙色と天然素材独特の面質の粗さによって写真に柔らかさや温かさが加わります。これは実際に印刷された写真を見て感じてもらうのが1番なのですが、それはもうなんともいえない温かみのある雰囲気が付加されます。
私の写真は元々そういった要素を大事にして撮影しているのでパソコンのモニター上で見ている自身の写真が格段に良い雰囲気となって出力される瞬間はいつも楽しみです。写真が作品へと昇華されるような。もはやこれだけでも私がAIJPを使い続ける理由と言えます。
インパクト
次に、一般的に多くの方が写真用光沢紙を使用している中でAIJPに印刷すると‥‥ゲスな言い方ですが単純に目立ちます。「写真を和紙に印刷出来るの!?」という意識も手伝ってか私の個展でも和紙印刷導入前に比べ、一つ一つの作品の鑑賞時間も長く会場を何周もして頂いたり会期中に何度も足を運んで頂いたりという事が非常に増えました。
紙としての強さ
3つ目は紙としての強さです。中性紙である和紙は保存状態によっては1000年保つと言われています。理由は以前読んだコラムより引用致しますが
和紙の原料に楮、三椏、雁皮などの繊維の長い靭皮繊維を使い、しかも原料の叩解も温和な手仕事で処理されるために、損傷は少なく、繊維の切断もほとんどなく、自然のままの丈夫さを保っていること、さらに漉くときの酸性度(pH)がアルカリから中性にあることなどが保存性・耐久性が良い要因です。その結果、抜群の耐久性、強靭性、そしてやわらかな光沢など、薄くて美しい紙が得られ、世界でも高い評価を得ています。
となります。
顔料インクとの相性
さらに紫外線や水にも強い顔料インクのプリンターを使用すると水張りも出来ますし、ほとんど劣化を気にしないで陽が差し込むような場所での展示も出来るようになります。逆に美術館での作品保存のように印刷物の間に中性紙をはさみ湿度と光をコントロールした状態で保管すれば前述した年月でも作品のクオリティを保ってくれるでしょう。(こちらはまだ自身の作品で実証するには994年ほど足りませんが(汗))
耐擦傷性の高さ
さらにさらに、アワガミファクトリー公式サイトの記事や他のレビューではあまり書かれませんが耐擦傷性(こすれによる傷のつきにくさの度合い)も非常に高いです。私が以前使用していたコットンベースのアートファインペーパーでは印刷した紙面を爪や指でほんの少しこするだけでも傷が付いてしまいお客様への販売作品としては使用に耐えられませんでした。ですがAIJPの場合はその耐擦傷性の高さを信じて保護のアクリルガラスを外して展示出来る程です。
使用和紙
AIJPシリーズはかなりの種類がありますが私は主に2種類のAIJPを使用しています。
竹和紙
絹のような手触りと、コットン紙よりもふんわりと柔らかな風合いが特徴。
紙に厚みがあり透過しにくく、重厚感、高級感のある仕上がりとなります。
環境に優しい「竹」を原料にしています。
竹和紙の魅力
私がAIJP竹和紙を使用していて感じる魅力はその上品な白さと面質のきめ細かさです。印刷が難しいとされる和紙の中でも色彩表現力が高くほとんどのジャンルの写真印刷に適していると思います。さらになんと両面印刷可能。(片面印刷用の竹和紙もあります)これにより頻繁に行うテスト印刷でも表と裏で2度印刷が可能なのでAIJPシリーズの中でもダントツにコストパフォーマンスが高いです。
※竹和紙印刷面アップ。マクロ写真特有のなめらかなボケも表現しつつ秋桜のハイライト部分も非常に上品に仕上がっています。
プレミオ雲流
楮の繊維を細長く筋状に残すことにより、和紙の雰囲気をダイレクトに感じることができます。 楮の繊維を活かすため、風景などシンプルな作品の制作に推奨しています。
プレミオ雲流の魅力
プレミオ雲流の魅力はなんといってもその筋状に残った繊維の作り出す雰囲気でしょう。時にその繊維の流れは写真に風を感じさせてくれたり、オーラや魂をも感じさせてくれる時があります。反面、その繊維の流れが強すぎて写真によっては繊細な表現を損なう場合もあります。印刷する写真選択には注意が必要でしょう。
※プレミオ雲流印刷面アップ。繊維の上に乗ったインク色のグラデーションが時に想像以上の美しさを見せてくれます。
まとめ
それでは和紙レビューのまとめとなります。
私が使用しているのは徳島県の阿波和紙。中でもアワガミファクトリー社より販売されているアワガミインクジェットペーパーというシリーズがお薦め。
アワガミインクジェットペーパーは、一般的なインクジェットプリンター用に開発された和紙。適度な厚みがありプリンター内で折れたりせず紙面に滲み止め加工がされているのでインクが滲まない。
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アワガミインクジェットペーパーのデメリット
・微量の紙粉が出る。
・黒が締まりにくい。
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アワガミインクジェットペーパーのメリット
・柔らかさや温かみの増す質感。
・写真が和紙に印刷されているというインパクト。
・和紙の特質からくる保存性の高さ。
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使用和紙
1.AIJP竹和紙 上品な白さと面質のきめ細かさが特徴。両面印刷可能なのでコストパフォーマンス高し。
2.プレミオ雲流 楮の荒々しい繊維が独特の雰囲気を作り出す。
となります。いかがでしょうか?貴方も和紙独特の風合いを生かした印刷で新しい表現方法を手に入れてみませんか。それでは、また!!
※また、こちらの公式宣伝動画(音量注意&8:10頃に注目)で私のマクロ写真もちらっと出てきます。